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放送席の声が選手に聞こえてしまう? 無観客試合は奥が深い

文春野球コラム Cリーグ2020

山内「えのきどいちろうさんがゲストで、えのきどさんとこんな会話をしてましたねと言われたらしいですよ」

 こういう形で登場か! 僕があの日、繰り返し言ったのは「渕上さん渕上さん、グダグダな試合はお嫌いですか?」だった。得点経過がバカ試合一歩手前のグダグダなものだったから。もちろん僕の言い分は「ピーンと張り詰めた、息をのむ名勝負なんて年に数回あればいい。大概は流れがあっちへ行ったりこっちへ来たりする、ストーリーの掴みづらい試合」「むしろグダグダな試合にこそ野球のコクがある」といったことだった。が、まさか聞かれていたとは……。それはバツが悪いなぁ。

 

無観客試合で目撃した最高のシーン

 山内さんと川畑さんの話題は「選手に聴こえたら取材しにくくなる」というところまで転がっていく。

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山内「あー、セカンドエラー! 何やってるんだー!! なんて言ったらセカンドの人に聴こえますよ」

 ん? 山内さんなぜエラーの例をセカンドに?

 それはいいとして、つまり、可能性としては「グダグダな試合」呼ばわりがベンチやグラウンドに届いていた可能性があるということだ。

 これは今後、無観客試合の見方を変え得る。僕は間違いなくラジオ中継の音声に他局の音漏れを探すだろうし、大チョンボをした選手が出たら、次の瞬間、実況席の叱責の声が聴こえているかもしれないと考えるだろう。

 そういえば僕が3月13日のナイターで見かけたシーンを思い出した。僕は翌日に放送本番を控え、予習のつもりで記者席からDeNA戦(第1戦)を見た。試合途中、イニング間だからCMのタイミングだったと思う。岩本勉さんが放送ブースから立ち上がって「上田コーチ! 上田コーチ!」と大声で呼びかけたのだ。シーンとした球場内にガンちゃんの「上田コーチ!」が響き渡る。

 ベイスターズの上田佳範コーチだった。元ファイターズの主力選手。ガンちゃんとは同じ釜のメシを食った仲だ。声に気づいて上田コーチが手を挙げる。ガンちゃんも返す。あくまでオープン戦だから実現したシーンだと思う。僕は「無観客ってこんなこと可能なんだ」と笑いそうになり、それから岩本勉、上田佳範の変わらぬ友情にジーンと来た。90年代、東京ドームに通いつめ、彼らの活躍を見たファンはあの日、札幌ドームに僕ひとりだった(と思う)。最高のシーンを目撃した。

 無観客試合って奥が深そうなのだ。実況席からグラウンドに呼びかけることも可能だ。もしかしたらその逆だってあり得る。もちろん、本当の本当は無人のスタンドはつまらない。が、つまらないなんて口が裂けても言いたくない。この状況下だって楽しんでみせる。それが心意気だ。

3月、無観客ナイターの終わった後、地下鉄東豊線で撮影。ひと気がなくて、ちょっと怖くなりました ©えのきどいちろう

 HBC公式YouTubeチャンネルのおかげで僕のイメージの解像度は一段上がった。こうやって少しずつ開幕へ向け気持ちを高めていく。

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