6月19日の開幕へ向け、球界は動き出した。先週はファイターズ応援仲間に「えのきどさんの名前が出てましたよ」と教えられ、HBC公式YouTube【Fガッチャンコ】「2020シーズン開幕決定スペシャル#1」という動画を見たのだ。HBCスポーツ実況の主戦級、山内要一アナ&川畑恒一アナのトークだった。開幕が決まって、お二人の声も弾んでいた。もちろん選手や球団関係者、そして僕らファンも待ちわびたわけだけど、メディア関係者だってしびれを切らしていた。動画の冒頭、山内要一アナは日程通り3月20日に開幕していた場合、メットライフドームで実況しているはずだったと明かす。そのために西武側の資料もつくり、準備していたそうだ。
面白いのは二人とも何となくブランクを不安視していたことだ。選手もそうだけど、一度スイッチを切ってしまったから感覚が戻るか不安になる。例年のルーティンなら1月末の「あぁ、キャンプだなぁ」から始まって、こう、だんだん気持ちをつくり、イメージの解像度を上げて、臨戦態勢を整えていく時間がある。実況アナも開幕へ向け「いちばんキレのある自分」を準備するのだ。それを今シーズンは1か月足らずの期間で急ごしらえする。
が、僕に言わせれば山内さんも川畑さんも伊達にキャリアは積んでない。先発投手じゃないけれど「試合がつくれるアナ」だ。ぜんぜん平気ではないだろうか。むしろここからどう仕上げてくるか楽しみとしたい。
話は「withコロナ」の仕事の難しさというほうへスライドしていく。これはスポーツ新聞の記者さんからもよく聞くところだが、選手取材がしにくいという。これまでだったら、試合前など選手をつかまえて、雑談から入って色々とネタを仕入れるところを、コロナ禍の下では取材制限や接見禁止が徹底される。NPBがガイドラインをつくってくれればいいのだが、こればっかりはメディア陣としても手探りの状態だ。おそらくコメント取りは試合後のオンライン会見だけになりそうだ。そうすると、各社独自の味を出すのに大変苦労する。僕は選手のLINEや電話番号を握ってるアナ&記者の勝ちではないかと想像する。つまり、若くてこれから人脈をつくらねばならない(特にフリーの)取材者は大変なハンデを背負う。
が、そういうくだりに僕の名前は出て来なかった。これが意外とドキドキするんである。応援仲間にあらかじめ教わらなければ「宮西尚生の13年連続50試合登板の記録は(120試合制の過密スケジュールのなかで)達成できるのか?」みたいな話に無心でうなずいていただろう。が、教わってしまうともういけない。いつ言われるか何を言われるか気が気じゃないんだなぁ。
「放送の声がドーム内に響き渡る」
名前が出てきたのは最後のほうだった。無観客試合に関するくだりだ。読者も先般ご承知の通り、NPBは開幕してしばらくの間、無観客での試合開催が想定されている。無観客試合といえば3月のオープン戦でも話題になったが、球音と選手間の声がけ、ベンチのヤジである。普段、群衆音にかき消されてしまいがちな音や声をマイクが拾ってくれる。あぁ、こんな声がけをしていたんだな、今のヤジは誰かな、といった楽しみができた。そりゃ無人のスタンドは寒々しいけれど、滅多にないシチュエーションだと思えば、逆にこの状況下での楽しみを見つけるのも一興だろう。
僕はこの動画を見るまでそんなもんだと思っていた。
ところがそれだけの話じゃなかったのだ。僕はHBC渕上紘行アナと組んで、3月14日のオープン戦(DeNA戦)のラジオ解説でブースに入った。そのとき遊軍リポーター役(コロナ禍のため「ベンチサイドリポーター」ではない)で山内要一アナが札幌ドームにいたのだ。山内さんは言う。「放送の声がドーム内に響き渡る」と。シーンと静まり返ったドーム内、こっちもベンチのヤジを聴いてるかもしれないが、向こうにも放送席の声が聴こえている(!)。
川畑「10メートル以上離れたCSさんの実況、解説者の声とかね、全部やっぱり静かな環境のなかだと通ってくるんで、そういうなかでもね、各局並んで放送することもあるでしょうから……」
山内「HBCラジオはオープン戦中継して、実況したのは渕上アナウンサーと水野(善公)アナウンサーだったんですけど、渕上アナウンサーに聞いたらしゃべり声が全部、新聞記者さんに筒抜けになってて、あとで○○って言ってましたねって言われたらしいですよ」
それは札幌ドームの特殊事情でもある。バックネット裏上方に記者席があって、その一角が放送席に当てられているのだ。一般的な大規模スタジアムのように放送席が個室状に仕切られていない。だから、無観客だとGAORAでしゃべってる近藤祐司さんの「ごーんぬっ」がこっちまで聴こえてきたり、ラジオの実況内容を新聞記者さんに全部聞かれたりする。