この度、文春野球コラムで広島東洋カープについて書くことになりました。トリプルファイヤーというバンドでボーカルをやっている吉田です。
私のことを広島ファンだと認識している人は友人を含めてもほとんどいないと思います。プロ野球ではどこのチームが好きですか、と聞かれたら広島東洋カープと答えますが、聞かれなければ自分から広島ファンだと言うことはほぼありません。他人から思われているよりは野球を知っていると自負しているのですが、友人たちが野球の話をしていても横で聞いているだけのことが多いです。
音楽でも本でもそうですが、自分より詳しい人が無数にいることを気にし始めると自分が語るべきことなど何もないような気がしてきます。会話に入ったとして、どこかのタイミングで「あ、こいつあんま野球詳しくないな」と気を使われてしまうのではないか。それなら別に人に言わず心の中でだけ応援していればいいや、と割り切ろうとしますが、やはり横で聞いていると自分なりの意見を言いたくなったりもします。「中田翔は札幌ドームじゃなかったらホームラン王とれるかも」「『筒香』は最初読みにくいけど『塹江』とか『下水流』もヤバイよね」そんな意見を挟みたくなっても、今まで話に参加して来なかったツケとしてすでに「野球の話が通じない奴」の烙印を押されているので、いまさら何か言ったところで誰も聞く耳を持たないだろう、と黙りこくったまま今に至ります。ファンが集う酒場など恐ろしくて絶対に行けません。
私は実体のない幻影のようなものと戦っているのかもしれません。某テレビ番組で野球を11人で行うスポーツと発言し散々“にわか”扱いされながらも、堂々と広島ファンで居続ける加藤紗里さんを見習いたい気持ちがあります。
「よし、俺は広島ファンで行こう」と決めた瞬間
そんな私ですがカープファン歴は意外と長く、1996年、小学3年生の頃からファンだと自認しています。友達の親が阪神のユニフォームやメガホンを家に飾っているのを見て「野球ファンって楽しそうだな」と思い、自分もどこかのチームを好きになりたくなったのです。
私の生まれは四国の香川県です。東京出身ならジャイアンツ、大阪や兵庫出身なら阪神、九州ならホークスというように、野球チームが地域に根ざしている場所に生まれれば「自分は生粋の〇〇ファンだ」というアイデンティティを持ちやすいと思いますが、今でこそ四国アイランドリーグplusがあるものの当時は何の野球チームもなかった四国地方ではどこのチームも別に自分と関係がないので特定のチームを応援する必然性を感じないというか、極端なことを言うなら例えば巨人ファンだったとしても阪神に負けて悔しくなったら阪神ファンに鞍替えすればいいじゃん、最初から勝手に自分で決めただけなんだから、という論理が生じるような気がして、どこかのファンになる気持ちが削がれていました。
四国に生まれた自分が特定球団のファンになる必然性を見出すには、妥協案ではありますができるだけ地元に近いチームを応援するしかないと思いました。その頃香川県から近い球団は阪神、オリックス、近鉄、広島あたりでしたが、私の生まれた詫間町というところはたまたま香川県内で海を挟んで最も広島に近い町で、それを無理やり運命的なものと思い込んで、「よし、俺は広島ファンで行こう」と決めたのでした。