その後も、ドラマにあいついで出演する。当時全盛だったトレンディドラマに、唐沢は自分には向いていないと思いつつも出演するうち、トレンディ俳優として認知されていく。そんななか、女優の浅野ゆう子に誘われてドラマ『男について』(1990年)に出演する。浅野には演技力を高く買われ、やがて彼女と同じ事務所に移籍。1992年には野島伸司脚本の大ヒットドラマ『愛という名のもとに』でついにブレイクを果たす。そこで演じた政治家の息子という役柄は、東京の下町のけっして裕福ではない家庭に育った彼とはまるで正反対の役だった。それでも、役者になろうと決意して以来、自分のなかに抱えたいろんな人間を引き出す作業を意識的にやってきただけに、難なく演じることができた。
今年で結婚25年 妻について語っていたこと
俳優・唐沢寿明として、素の自分とはかけ離れた役もこなしながら自信を深める一方で、その分、もうひとりの「唐沢潔」のほうは鬱屈した思いを内向させるようになっていたという。しかしこのころには、そんな彼をまるごと認めてくれ、注いでも注ぎ足りない思いで愛情を授けてくれる女性と出会っていた。言うまでもなく、『純ちゃんの応援歌』での共演をきっかけに交際を始めた山口智子である。2人は1995年に結婚。その翌年、唐沢が少年時代から、山口と出会って結婚するまでをつづった自伝『ふたり』がベストセラーとなった。
結婚20年を迎えた2015年のインタビューで、唐沢はあらためて山口とはどんな存在かと問われ、次のように答えている。
《人間、やっぱり1人じゃ生きていけないよね。誰か味方がいないと。俺にとってあの子はそんな存在。うちの奥さんは欲が全然ない。自分の好きなことをして毎日を過ごしていますよ。俺はそれでいいと思ってる》(※5)
ただ、山口に言わせると、唐沢とは嗜好が真逆で、若い頃はあまりに趣味が違いすぎてフラストレーションを感じることもあったという。しかし、歳を重ねるうちに彼に感謝するようになった。2016年のインタビューで彼女はこう語っている。