《でも今では、私を好きなだけ放っておいてくれることに大感謝。私はのびのび自分の興味の的に邁進できるから。考えてみたら、私に何かを強制をしたこともないし、あれダメこれダメと、命令されたことは一度もない。いつも私が一番心地いい状態になるように、放っておいてくれる。(中略)彼曰く、『自分がしてほしいことを相手に押し付けるのではなくて、相手が幸せでいてくれることが自分の幸せ』なんですって。私が楽しく幸せでいることを望んでくれる人に出会えて、私は本当に幸せ。彼には心から感謝してます》(※6)
「俺は52歳だけど、来年あの役をやりたいとかないんです」
唐沢は山口を「欲が全然ない」と評したが、それは彼自身も同じだった。先のインタビューでは、《今、俺は52歳だけど、来年あの役をやりたいとか、そういった目標がないんです。きっと俺は運が良いんだろうね。いろんな役のオファーをもらって、ちょっと異色な役もやってみたら大当たりだったりして。たぶん、根が怠けものだから、常にチャレンジしなきゃいけないような作品ばかり来るんだね》とも語っていた(※5)。どんな役でも楽しんで演じられるようになったのも、じつに50歳をすぎてからだという(※1)。
昨年からは東日本大震災復興支援のチャリティーイベントとして、昔から好きだったクラシックカーのラリー「GO!GO!ラリーin東北」をスタートさせた。かつて先輩の女優から「ある程度有名になったら、何でもいいから人のために何かしなさい」と言われたという。イベントはその助言を実行に移したものだ。「人のために」という思いは妻の山口にも向けられ、彼女に来た仕事は脚本を読んであげて意見も言うという(※5)。仕事の現場でも、若い共演者たちにアドバイスを惜しまない。そこでは役の位置づけについて説明することが多いとか。その際、よく口にするらしい《初めのうちは出すぎるな。最後におまえの見せ場がちゃんとあるから、そこまではじっと我慢だ。そのほうが俳優としての評価は高まるぞ》との言葉は、俳優を志して以来、長い修業を積んできた彼ならではといえる(※2)。
※1 『家の光』2020年5月号
※2 『Voice』2015年12月号
※3 『エール』番組公式サイト(https://www.nhk.or.jp/yell/special/interview/04.html)
※4 唐沢寿明『ふたり』(幻冬舎文庫、1998年)
※5 『婦人公論』2015年12月8日号
※6 『FRaU』2016年3月号