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杜に長く住み着いた動物みたい

 参道をさらに進むと、葉群れのあいだから何かの気配を感じた。目を凝らすと、白い大きな動物が潜んでいる。これも展示作品のひとつ、三沢厚彦《Animal 2012-01B》だ。

葉群れのあいだから何かの気配を感じて……
三沢厚彦《Animal 2012-01B》

 彫刻家の三沢は、動物の姿を等身大で彫る木彫シリーズ「Animals」を二十年来続けている。極端に写実的というわけではないが、これが自然の中に置かれると周囲とよく馴染み、生きた動物のように見える。この杜に長く住み着く動物だと説明されても、違和感なく受け入れてしまいそうだ。

 杜のずっと奥へ足を踏み入れると出逢えるのは、船井美佐《Paradise/Boundary -SINME-》。鏡を素材にした絵画などで知られる船井は今回、馬の姿をかたどった平面作品を杜にそっと置いた。表面の鏡に緑が映り込むので、よくよく注意しないと存在にも気づけない。でもいったん目に捉えてしまえば、見る角度により輝きを変える繊細な美しさにうっとりさせられる。

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船井美佐《Paradise/Boundary -SINME-》

 百年ずっと親しまれてきた神宮の杜と現代美術の作品群は、互いに引き立て合い輝きを増幅させている。緑の色がいっそう濃くなるこれからの季節に、ぜひ訪れて伸びやかな時間を過ごしたい。