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「自分の身体は他者かもしれない」アーティストを創作に駆り立てる“どきりとする”瞬間とは

アートな土曜日

2020/05/02

 一時的に発表の場がクローズしたとしても、それはそれ。手を動かし続け、想像することは止めない。それがアーティストと呼ばれる人たちだ。

 身体と思考、自己と他者の関係性などを探索し続けてきた川内理香子も、きっとそう。

 作品と直に対面できるその日を楽しみに、いまは彼女の言葉に耳を傾けてみよう。

自分の身体は「他者」かもしれない

 ドローイング、油彩画、針金やネオン管などによる立体作品……。川内理香子は幅広い手法を用いるけれど、創作の原点に「身体」についての不思議が横たわっているのはいつも変わらない。

heart, 2018, oil on canvas, 360 x 265 mm ©︎Rikako KAWAUCHI, courtesy of the artist and WAITINGROOM

「身体って自分のもののはずなのに、『怖いな』と感じることがよくあります。自分にはわからないというか、思い通りにいかなかったり、振り回されてしまうことが多いじゃないですか。

 たとえばすごくお腹が空けば、クラクラしてろくにものを考えられなくなってきて、食欲を満たすことにひたすら執着してしまう。逆に食べ過ぎると、お腹が重くなって思考も鈍くなるし。しかも、お腹が空く・いっぱいになるというサイクルは、生きている限り繰り返さないといけない。たいへんなことですよね」

 他にも、身体が連れてくる痛みや眠気にだって、逆らうのは困難だ。足の小指を机の角にぶつければ、しばらくは痛くて何も考えられない。睡眠不足で朦朧としていたら、その人のパフォーマンスはガタ落ちである。

「風邪を引いただけでも動けなくなるし、寝込んでいると周りがぜんぜん違う世界のように見えたりしますよね。私たちはいつも身体に脅かされているんだなと感じます。

 思考にも似たところがあると思います。ある考えに取り憑かれると、それが頭から離れなくなって、自制が効かなくなったりするから。

 自分の身体や思考といった、いわば『身内』と思っていたものが、じつは『他者』だったと気づかされるような瞬間に出会すと、どきりとします。そのときの気持ちの揺れみたいなものが作品に生かされていることは多いです」