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「自分の身体は他者かもしれない」アーティストを創作に駆り立てる“どきりとする”瞬間とは

アートな土曜日

2020/05/02
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自身の営みの中心には「描くこと」がしかとある

 ではスタートはどこにあるのだろう。川内理香子の創作の「ひと筆め」は、どこからくるのか。

「それぞれの作品をつくるときの始まりの瞬間って、ほとんど思い出せないです。どうやって描いたのか、過程もあまり覚えていない。制作に充てる時間帯もとくに決まっていなくて、思い立てばすぐに筆をとります。何かすでに動かしている作品があるあいだは、頭がずっとオンになっている感じで、四六時中どこかで絵のことが気になってしまう。夜中や早朝に起き出して、すぐに『行かなきゃ』と、作品の前に駆り立てられることも多いですね」

 そもそも絵を描き始めた時期も、あまりはっきりとはしない。

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「描くことは好きで、ものごころついたころからいつも何かを描いていたみたいです。大きくなったら何になりたい? と訊かれれば『お絵かき上手』と応えていました。

 7歳のとき、新聞に載っていた絵に強く惹きつけられたことがありました。どこかのお寺の天井画で、立派な龍の図。なぜかいたく感動して、それから3日間ほどぶっ続けで、その絵を模写しました。とくに龍の爪の部分が気に入ったんです。

 その様子を見て母は『この子はこういう道に進むといいのかもしれない』と思ったそうで、よく美術館に連れて行ってくれたり、絵を習わせてくれたりするようになりました」

 以来いつも、自身の営みの中心には「描くこと」がしかとあって、それはいまも変わらない。この生まれついての「描くひと」から創り出される作品を、実際に体験できる機会は、きっとそう遠くないはずである。

excretion, 2017, oil on canvas, 910 x 727 mm ©︎Rikako KAWAUCHI, courtesy of the artist and WAITINGROOM
「自分の身体は他者かもしれない」アーティストを創作に駆り立てる“どきりとする”瞬間とは

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