例えば、第185話(完結編・第18話)のワンシーンでは、命懸けの最終決戦を前に、それでも共に戦うことを選んでくれたかごめに対し、犬夜叉は「だったら俺は命を懸けてお前を守る」と迷いなく言い切ります。実はこの犬夜叉、確かにダメな一面もあるものの、こうしていざという時に頼もしく、不器用だけど優しかったり、単純でかわいいところもあるなど、あらゆる顔を見せるのです。
そして「少しだけ“影がある”」というキャラクター要素もその魅力をまたさらに強めています。主人公の犬夜叉は、物語の中で自身の出自に対するコンプレックスを持ち、それによって差別を受けたことや、想い人をすれ違いの上で失うなど、数々の暗い経験があったことが描かれています。荒くれものだけど根は心優しい少年漫画の王道系主人公という魅力的なキャラクターが、宿命や因縁、呪いといった影のある要素を背負うことで、さらにその姿に多面性と深みを与え、より多くの女性ファンの心を捕えます。
“ギャップ萌え”というといささか陳腐ですが、本作には主人公を筆頭に、思わず『ずるいなー』と唸ってしまうような一筋縄じゃいかないキャラクターが多く、気づいたときにはすっかり彼らの虜になっているのです。
その2)バトルと並行して描かれる主人公を取り巻く“細かな人間ドラマ”
そして、この主人公を中心にした複雑な関係性が織りなすドラマもこの作品の見どころです。特に女性ファンからの注目度が高いのは、犬夜叉が二股男と言われる所以となっている、ヒロイン・かごめと犬夜叉のかつての想い人・桔梗との三角関係です。桔梗とはかつて、犬夜叉と相思の間柄でありながらも、それを妬む者の策略によって命を落とした女性で、傀儡として蘇させられたことで、死者として犬夜叉とかごめの前に現れます。
第47話(第2期 3話)と第48話(第2期 4話)では、かごめと桔梗で揺れ動いていた犬夜叉がとうとう桔梗に変わらぬ思いを告白し、彼女を抱きしめます。これだけでも結構な衝撃なのですが、さらにこの現場をかごめが目撃してしまうという修羅場のような展開を迎えます。2人の姿、そして一言も言い訳をしない犬夜叉に、自分が入る余地はないと、かごめは身を引くことを決意します。しかし、結局は自分の中にある犬夜叉への想いは捨てられず、桔梗と犬夜叉のことをわかった上で「犬夜叉と一緒にいたい」と共に旅を続けることを選ぶのです。それぞれの複雑な心境も分かるだけに、なんともやるせないのですが、この三角関係による修羅場が起きるたびに、「犬夜叉! はっきりどっちかに決めて!」と叫ばずにはいられません。
しかし、こうした恋愛における細かく複雑な関係描写は少年漫画において珍しいとも言えます。悪を倒すためにバトルを繰り広げる一方で、こうしたやきもきしてしまう細かなキャラクター同士の関係性が示されるからこそ、彼らの行く末からどんどん目が離せなくなり、本作の深い沼にはまっていってしまうのです。