教育現場と家庭の情報共有がいじめを未然に防ぐ
亜弥は「調査に協力してくれた同級生や保護者には感謝したい」と述べる。とはいえ、親に言える子どもと言えない子どもがおり、子ども自身も自尊心やプライドがあるのも事実だ。だからこそ、子どもの異変について、学校が知っていることは保護者に教えてほしいと亜弥は考えている。そうすれば、なんかの対応ができたし、菜絵はいまも生きていたかもしれない。親と子どもと学校が情報を共有する。たったそれだけのことで、防げることがある。
また、学校や市教委は当初、「自殺の要因が学校ではなく、家庭にある」と即断した。疑われていた虐待の事実は否定され、その検証は十分にされた。今回は、「母親が殴っていた」などという根拠のない噂が出回っていたが、それが否定されたかたちだ。こうした家族の問題を疑うような噂は、ほかのいじめ自殺事件でも流れたりする。この点について第三者調査委は、真相解明と再発防止策の早期実施を遅らせたことから、「責任は極めて重大」として学校と市教委の対応を批判した。
報告書では、いじめについての共通理解の重要性や、いじめ早期発見のためのアンケート実施、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの活用など、いくつかの提言がなされている。そして、その提言を実行するための監督機関の設置も検討の対象とした。
現在も継続する「いじめ訴訟」
報告書を読んだ亜弥は、バランスが悪いと思った。クラスメイトによるいじめが検証がされ、認定されている。他方、テニスコートでお墓を作っていたという情報や先輩からの暴力など、部活動での出来事がほとんど検証されていなかったからだ。
市側も第三者調査委の調査結果に不満を抱いた。5月27日に開かれた市議会の文教常任委員会で、森下豊市長(当時)は「特別な監督機関は断固として反対。偏った物の見方の提言がされたことに不満を持っている」と答弁。第三者調査委に市や市教委が「公正中立」ではないと指摘されたことへの反発だった。
9月1日、市や加害者を相手に約9700万円を求めて、遺族は損害賠償請求訴訟を奈良地裁(木太伸広裁判長)に起こした。裁判で争点となっているのは「いじめ」が「自殺の兆候」にあたるか、である。争点を検証するため、市側に情報の開示を求める「文書提出命令(文提)の申し立て」を遺族がおこない、奈良地裁は一定の範囲での開示を決定した。
裁判をおこなっても、学校や市教委は生徒の情報を出したがらない。だからこそ、いじめ自殺の裁判を中断してでも、「文提」で闘わなければならなくなり、それだけで時間がかかることになる。そのため、現在も継続している。
【追記】
2020年5月26日、奈良地裁(島岡大雄裁判長)で証人尋問が行われた。
また、同級生の友人も証言。