新型コロナウイルスによる肺炎で、志村けんさん(当時70)が亡くなってから、間もなく3カ月が経つ。「志村ロス」がやまないなか、代役として映画『キネマの神様』に主演することが決まっている沢田研二は72歳の誕生日を迎えた。2歳違いの二人は“加トちゃんケンちゃん”“志村と田代まさし”と並ぶ名コンビだったという。隠された「共通点」とは、いったい何だったのか。

志村けんさん ©文藝春秋

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「エール」で見せた微細かつ複雑な演技

 睨むような視線を送り、冷たい一瞥を投げ、怒鳴って机を叩く……。

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「エール」で“笑い”を完全封印し、凄まじい威圧感を放ちながら日本作曲界の大重鎮である小山田耕三を演じた志村けん。“これまで見たことのない志村”の数々に圧倒させられたが、第48話(6月3日放送)でも唸らせられた。

 古山裕一(窪田正孝)が作曲を手掛けるも売れていない「船頭可愛いや」のレコードを聴いた世界的オペラ歌手・双浦環(柴咲コウ)は、西洋音楽を下敷きにしながら親しみやすい流行歌に仕上げている裕一の才能に感嘆。彼の音楽を世の人々に届けるためにもと自分で再レコーディングしたいと願うが、所属するコロンブスレコード内でも圧倒的権限を誇る小山田耕三が止めにかかる。

連続テレビ小説「エール」より

 環は彼の部屋に乗り込み、反対する理由を問い詰めて「その目。私、その目を見たことがあります。ドイツにいた頃、先生と同じ目をした芸術家たちをたくさん見ました。彼らはみんな、自分の立場を脅かす新しい才能に敏感です」と言い放つ。「フッ、バカバカしい……」と返すも、痛いところをクリティカルヒットされてわずかにキョドる小山田=志村。

©︎iStock.com

「8時だョ!全員集合」「ドリフ大爆笑」「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」「志村けんのだいじょうぶだぁ」などで40年近く志村にまみれてきたうえに、「エール」撮影時に彼が語っていた「いつもの志村けんらしくない、こんなこともやりますよってところを見てもらえれば、うれしいね」「でも、ついつい何かしたくなっちゃう」というコメントも聞かされている身としては、同じフレームに柴咲コウと志村が収まっていると「私ってダメな女ね…」と柴咲が言い出して夫婦コント(「8時だョ!全員集合」)でもおっ始まるんじゃないかと思ったりもしたが、やっぱりそんなことはなし。

 裕一の才能に嫉妬を覚えていることを年下の女に突かれた驚き、恥ずかしさ、怒り、それでも保とうとする威厳を同居させた表情は“おっかない志村”で通してきたこれまでの「エール」では一切見せなかった微細かつ複雑なもので、演技派俳優としてのフェーズ移行が完了していたのだなと感じた。