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頭を悩ませる日々……書道アーティストがホークス公式グッズをデザインするまで

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/12
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タイムリミット直前、頭の中に降ってきたデザイン

 ここからファンフェスティバルに向けて、デザインを考えることになるのですが、 これがまた大変でした。

 私の書道アートとして得意にしてきたデザインは選手のフォームになります。ただ、ファンフェスティバルなので1人の選手にフォーカスするわけにはいきません。そのため一からデザインを考える必要がありました。

 デザインにあたり意識したのは、球団や選手からファンに向けた感謝を伝える特別な日である、ファンフェスティバルの特別感です。方針は決まりましたが、なかなか良いデザインは思いつかず、頭を悩ませる日々が続きました。いくつもの案が浮かんでは消えていき、墨だらけの紙が増えるばかりでした。

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 そんな中でも力をくれたのはホークスでした。クライマックスシリーズ、日本シリーズと連勝で勝ち進む姿は元気と勇気をくれました。そして日本一になったときはテレビの前で叫んでしまいました。選手だけでなく、ファンの皆さんも一丸となって戦う姿は輝いていました。そんな皆さんが喜ぶようなグッズを作りたいと強く思いました。

 さらに気合を入れて製作に取り組みました。

 しかし、思い浮かぶ案はあるものの納得できず、ずっと考え続けていました。こうなると締め切り時間との葛藤です。

 ぎりぎりまで悩みました。そしてタイムリミット直前で思いついたのが球団歌と九州の形のデザインでした。ホークスが九州に移転してから30周年ということで、九州で強くなったホークスと、九州のファンの皆さんが1つになったデザインです。

 頭の中に降ってくるように出てきたアイデアをそのまま筆にのせて書きました。

 結局、グッズになったデザインは徹夜明けとなり、締め切り当日の早朝に完成となりましたが、 いま振り返ってもあの時の私は不思議な感覚の中で筆を動かしていました。自分の中で新しい領域にいけた気がしました。

 この作品を持って打ち合わせの場に行った時のことは、今でも忘れません。何度も打合せをして予定していたデザインから、全く別のものを提出した私。だけど、グッズ担当の方も、思わず微笑んで、「これでいきましょう!」と即答してくれたのです。渾身のデザインに良い反応をいただけて、全身の力が抜けていく感覚でした。

 今までは自分の中だけで完結していた作品たち。それがグッズとなると、色んな人の気持ちを考え、いかに共感できる作品にするか、どれだけの思いを込められるか。どの言葉を選び、どう感じてもらう作品のグッズにするのか。まさに、無から生み出す答えのない初めての経験でした。この経験が、自分に新しい刺激を与えてくれました。

 その後も、実際にTシャツに合わせてみて配置や色、大きさの調整、想像以上に何度も打ち合わせを重ねました。グッズ担当の方々のファンに良いものを届けようという熱意が伝わってきて、私も最後までこだわって修正を重ねていきました。

昨年のファンフェスティバルのTシャツ(球団HPより)

グッズ製作を通じて学んだこと

 急ピッチでグッズは製作されて迎えたファンフェスティバル当日。憧れの選手達が自分のデザインしたTシャツを着ている姿は本当に夢のようで涙が溢れました。ファンの皆さんもたくさん購入していただいて、ありがとうございました。今までの人生で最も嬉しい瞬間でした。

 グッズ製作を通じて色々なことを学ばせてもらいました。正しい方法がわからなくても、どんなに遠い夢だと思っても、がむしゃらに頑張れば、夢は叶うということ。応援してくださる1人1人の皆さんの力が前に進む力になるということ。そして、プロ野球がとても大きな存在で、頑張る選手達が私達ファンに元気と勇気を与えているということ。

 たぶん日本中、世界中でプロ野球をみて力をもらって、それぞれの夢に向かって頑張る人がたくさんいるでしょう。私もその1人であり、これからも頑張っていきたいと思っています。

 ありがたいことに、今シーズンは支配下登録全67選手分の漢字Tシャツと漢字タオルをデザインさせていただきました。こちらも苦労話があるのですが、それはまた別の機会で。

今年の漢字Tシャツ(球団HPより)

 これからもグローバルに、ジャンルを問わずたくさんの作品を生み出していきたいです。

 2020年シーズンはプロ野球のない期間が長く続きました。 改めてプロ野球があることのありがたさを実感しています。大変な中、選手達は今日もひたむきに頑張っていることでしょう。

 応援する私達も負けないように頑張っていきましょう。

 そして球場で選手とファンが1つになって戦える日がまた来ることを願っています。

 今回書いた作品は、私達ファンがまた球場に行って応援できる日を願う、そんな思いを込めた書道アートです。左から順に、「興奮・夢・希望・感動」という文字で、ドームに向かう私たちをイメージして書かせていただきました。最後に是非、見てください。

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