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「もしかすると化けるかも……」金子弌大が私に予言していたオリックス・山本由伸の才能

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/19

 2年前、フジテレビを退社する時、新聞各社さんからインタビュー取材を受けました。

「どうして辞めたんですか?」「なぜ、独立しようと思ったんですか?」

 当時、所属事務所に集まって下さったスポーツ紙をはじめとした芸能記者さんたちから矢継ぎ早に質問が飛んできました。

「やっぱり野球実況は関西出身ですから阪神戦を実況してみたいですか?」

 という質問に対して、僕は、

「今、一番、実況したいのは……オリックスの試合です。実は局アナ時代は言えませんでしたが、大のオリックスファンで……」

 目の前にいるデイリースポーツの記者さんがひっくり返っていたのを覚えています。

 次の日のスポーツ紙芸能欄に、

「フジ退社の田中アナ、オリ戦実況がやりたくて独立」

 と掲載される展開に……。

 実況アナウンサーとして、スポーツキャスターとしてどのチームとも同じ距離をとり、バランスよく報じるスタンスをとってきた僕。でも根底にはいつかオリックス戦を実況し、95年、96年に観てきたあの強いオリックスをいつか伝えたい……そんな思いが日に日に強くなっていました。

 でも、スポーツ紙の記事を見た時、

「あぁ、これで他球団のファンを敵に回してしまった……他球団の選手から嫌われるかも……終わった……」

 そう思っていました。

 しかし、結果は……

「オリックスファンなんですか?」「ええ人ですね!」「オリックス愛を語るなんて尊敬します」「オリックスファンなんてイメージ良くなりましたよ」

 プロ野球ファンの皆さんから届く声は不思議なことに称賛ばかり。

 取材してきた現役プロ野球選手からも「大貴さん、オリファンなんですか? 球界にとってはめちゃくちゃ良いことです。オリファンを辞めたら駄目ですよ」なんて声を掛けられたり。

 オリックスファンは嫌われない。オリファンの皆さん、誇りを持ってオリックスを今季も応援しましょうね。

「もしかすると化けるかもです」

 長い前置きになりましたが、実は一昨年の冬に入る前、金子弌大投手の自主トレ取材でトータル・ワークアウトのケビン山崎トレーナーらとシアトルに連れて行ってもらったことがありました。

 その時、金子投手は移籍するかどうかの真っただ中。勿論、僕は「オリックスに残ってくれ」とシアトルでの取材の合間に、時間を見つけてはオリックス愛を彼にぶつけ続けました。

左からケビン山崎トレーナー、金子弌大投手、筆者 ©田中大貴

 話の流れからオリックス投手陣の話に転じ、その中で「面白い投手が入ってきた」と金子投手が話していたことがありました。

「しゃべったことは無いんですが、やり投げのロジックでピッチングフォームを固めている子がいて……もしかすると化けるかもです」

 やり投げ投法か、変わってるな。前の膝突っ張るよな……ケガするんじゃないのかな? 梃子の原理か、日本球界ではなかなか無い考えだと、ケビン山崎トレーナーらと独特のトレーニング方法について盛り上がっていました。

 今思うと、それが山本由伸投手だったのです。

 さすが金子弌大。見る目がある。

金子弌大投手と筆者 ©田中大貴

 ただ、一昨年の2018年はというと金子投手は怪我の為、夏場以降、離脱し2軍調整。その金子投手と入れ替わるようにしてセットアッパーとして一軍で頭角を現し始めたのが山本投手でした。その年の終わりに金子投手は北海道日本ハムファイターズへ移籍してしまうのです。

 すれ違うようにして、入れ替わるようにして、ほとんど交わることが無かった二人。

 実際、山本投手に金子投手のことを聞くと、

「偉大過ぎて、挨拶したことくらいしかありません。遠い存在でした。思い出なんて無いくらい距離がありました。ただ、練習で金子さんと同じ空間にいた時は、得られるものが何かあるんじゃないかと遠くからずっと観察していました」

 と吐露してくれました。

 金子投手のオリックス時代の練習の組み立て方、ブルペンでの過ごし方は完璧でしたと語る山本由伸。入団間もない当時の彼にとっては金子弌大は憧れの投手でしかありませんでした。

山本由伸投手と筆者 ©田中大貴