半ば公然と行われているものの、業界では法律違反の「押し紙」という言葉を使わないようにし、「残紙」と言い換えるのが一般的である。この所長の販売店では約1000部の日経新聞を購入しているが、うち約300部は残紙で、日経新聞社に支払う残紙の原価代金は月70万円以上にもなるという。
この所長は「しばらくは融資でしのぐしかない」と考えているが、押し紙があるが故に借金が膨らむのはあまりにも理不尽で悔しいという。
経営が追い込まれたら販売が正常化?
コロナ禍で経営的に追い込まれたことで、「残紙」をはじめとした業界の悪習が改善しつつある地域もある。
西日本の地方都市にある毎日新聞系統の販売店所長は「コロナ禍で折り込み広告は大幅に減ったが、何とかこの商売が延命できるよう頑張りたい」と話す。
4月の折り込み広告収入は前年比60万円減の100万円、5月は前年比150万円減の30万円程度。なるべく従業員を雇わず家族経営で運営してきたので、「徹底した経費削減はもう済んでおり、コロナ禍で折り込み広告が減っても削るところがなく、やることは残紙を切ることしかなかった」と言う。
この販売店では新聞社に交渉した結果、5月から購入部数を減らすのに成功した。通常であれば、販売店にいろいろと不利な条件を持ち出し、購入部数を減らさせないよう抵抗する新聞社側も、今回ばかりは比較的すんなりと販売店からの要請を飲んだという。
「5月半ばに佐賀新聞の販売店主が押し紙の損害賠償を佐賀新聞社に求めた訴訟の判決が佐賀地裁であり、原告の店主が勝訴した。この判決にどの新聞社も相当ビビっているらしく、それもあってこちらの要請に応じたのではないか」(毎日系所長)
さらに、この所長のエリアでは他系統の販売店らと「販売正常化」の話し合いができるようになりつつあるという。
「販売正常化」とは、豪華な景品を使って購読契約を獲得したり、購読料をもらわないサービス紙を約束して購読契約させるなどの行為をしないことである。