〈この点、フランスは、興味深い典型例を示しています。グローバリズムのゲームのルールを忠実に実行してきた国として、フランスのエリートたちは、工業で稼ぐのも、観光業で稼ぐのも、その良し悪しを問うことなく、同じようにGDPに換算できるという態度を30~40年にもわたって取ってきました。その結果どうなったか。
今回の新型コロナではっきりしたのは、モノの生産に関しては、フランスはもはや“先進国”ではなく“途上国”だということです。フランス人は、人工呼吸器もマスクも医薬品もつくれない自国の現実を突きつけられました。それらは、中国やインドで製造され、国内にはもはや技術や生産基盤がない。国内最後のマスク工場は、2年前に閉鎖されていたのです〉
仏独の死亡率を分けたもの
〈新型コロナが露わにした“グローバル化の不都合な真実”は、仏独の死亡率の違い(「40.4」と「9.5」、5月15日時点)に鮮明に現れています。
欧州では、EUとユーロ創設という形で「グローバリズム」が貫徹されました。とくにユーロがフランスの国内産業を破壊したのです。対照的にドイツは“単独通貨マルクよりもはるかに安いユーロ”によって、EU域内貿易でも、EU域外貿易でも恩恵を受け、巨額の貿易黒字を積み上げました。(略)
ユーロは、主にフランスの政治家たちが中心となって考案したものですが、“フランスの政治家が犯した史上最悪の失敗”と言って過言ではありません〉
〈こうして自国産業が壊滅し、ウイルスの防御手段が何も残されていないフランスには、「ロックダウン(都市封鎖)」しか選択肢がありませんでした。(略)
こうして約2カ月もの「自宅隔離生活」を強いられたフランス人が、見たくもないのに自宅のテレビで連日、見せられたのは、マクロン大統領、フィリップ首相、ベラン保健相といった政治家や官僚たちの虚偽ばかりの発表や会見です〉
「若者」や「現役世代」のリスクが誇張された
〈例えば、必要なマスクが国内になかった、というのが真実なのに、当初は、「効果がないからマスク着用は無意味だ」と言っていました。その後は、「マスクを製造する」と。しかし、そもそも国内の生産基盤がすでに失われているので、そのうち「中国に注文する」と言い始めた〉
〈最大の嘘は、新型コロナは、少なくとも現時点では、高齢者や持病のある人でなければ、リスクは小さいのに、「集中治療室の入院患者の平均年齢が下がってきている」というニュースを流し、「若者」や「現役世代」のリスクを誇張し、「外出禁止命令」を守らせようとしたことです〉
トッド氏がとくに強調するのは、「世代間の問題」だ。