〈この度の新型コロナのパンデミックは、何を示唆しているのでしょうか。私は、歴史家、歴史人口学者として“グローバリズムに対する最後の審判”だと捉えます。

 ただ、新しい何かが起きたのではなく、このパンデミックが、すでに起きていたことを露見させ、その変化を加速させている、と見るべきでしょう〉

 こう語るのは、仏の歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏だ。

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エマニュエル・トッド氏

各国の死亡率に大きな違いがある理由

〈「経済統計」は嘘をつきますが、「人口統計」は嘘をつきません。作家エマニュエル・ベルルが述べたように、「死は嘘をつかない」。「人口統計」の操作は困難だからです。

 今回の新型コロナで注目すべきなのも、各国の死亡率に大きな違いがあることです。

 もちろん、気候の影響などさまざまな要因があるので、その点も考慮すべきですが、少なくとも現時点では、全体としてウイルスの毒性はそれほど高くない。ですから、それぞれの死亡率は、「ウイルスの属性」よりも「各国の現実」について多くを物語っている、と捉えるべきです〉

〈「個人主義的」で「女性の地位が高い」国(私の専門の家族構造で見れば、英米のような「絶対主義核家族」や仏のような「平等主義核家族」)で、死亡率が高く、「権威主義的」で「女性の地位が低い」国(日独韓のような「直系家族」)で、死亡率が低くなっています。これには、グローバル化の度合が大きく関わっていると考えられます〉

「グローバル化の深度が各国の死亡率の高低に影響している」というのだが、それはなぜか。

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自分たちの生活すら守れなかった“先進国”

〈死亡率の低い後者のグループでは、グローバル化の下でも、暗黙の“保護主義的傾向”が作用し、産業空洞化に一定の歯止めがかかって、国内の生産基盤と医療資源がある程度、維持されました。そのために、被害の拡大を防げたのです。

 他方、死亡率の高い前者のグループでは、GDPばかりにこだわり、生活に必要不可欠な生産基盤すら手放して産業空洞化が起こり、いざという時に、自分たちの生活すら守れなかったのです。

 この意味で、新型コロナは“グローバリズムの知的な敗北”を宣告した、と言えるでしょう〉

 トッド氏は、先進国のなかでも多くの死者を出したフランスの状況を次のように分析する。