日本においても同様に、感染が次のステージに入り、リスクの高い人々に感染が広まれば、死亡率は上昇に転じるであろう。症状のある感染者を中心に検査をしていた第1波の頃は、感染から死亡までのタイムラグが2週間程度であったが、より早い段階での検査が広まってきている現在は3~4週間に延びていると考えられる。
このタイムラグの長期化は、第1波の時に比べると、同じ水準の死亡者数でも、その背後にある感染の拡がり・深刻度は、より大きなものになっていることを意味する。第1波の時と同じような感覚で死亡者が増え出してから対応をすると、感染拡大が止められなくなるリスクがあることに細心の注意を払う必要がある。
全体像が見えない東京都のデータ
今回のような無症状の若者中心の感染拡大期には、ミクロに感染者を絞り込むクラスター対策が困難となるため、マクロの視点からの感染トレンドを、PCR検査の大幅拡充により的確に把握し、必要に応じて機動的かつ効果的なタイミングで再度の緊急事態宣言等を行える枠組みを整備することが何よりも重要となってくる。
そのPCR検査については、東京都の検査数は最近増えたとはいえ、毎日2000~2500件程度であり、患者の増加率や東京都の人口規模から言えば、まだまだ少ない。
ホストクラブなどの事例がセンセーショナルに大きく報道されているが、感染経路不明者が増加しており、それ以外の状況は全く不明だ。また、そうした報道によれば、検査を拒むケースも出てきている。ホストクラブ以外でも、一般の方の屋内の小規模な集会でも、若年層の無症状感染者等が動き回ることにより容易に広がる可能性はある。そして、仮に万全の感染対策をとっていたとしても、感染をゼロにすることは困難だ。
歓楽街以外にも市中感染が広がっていないか、病院や介護施設への感染の可能性はないかも含め、幅広いモニタリングが不可欠だ。
厚労省の専門家会議は休業再要請の指標を作成している。それは、直近1週間の人口10万人当たりの感染者数が2.5人以上というものである。東京都では、6月29日以降すでに厚労省の基準を超えている。しかし、東京都は6月30日に新たなモニタリング項目を定めたが、都民に警戒を呼びかける基準となる数値は設けられていない。もちろん基準を機械的に採用するのではなく総合的な判断が必要だが、曖昧さは否めない。
いま東京都に一番必要な事は、「誰もが信頼できる感染トレンドを示すデータの公表」の枠組みを整備することではないだろうか。最近の新宿を中心とした感染者数増加についても、楽観論者は「新宿区の10万円補助によりホストクラブ関係者が検査をこぞって受け始めた結果だ」と主張し、悲観論者は「感染爆発の入口に入っている」と受け止めている。つまり、現在の感染者数のデータは、都民の多くが感染トレンドの認識が共有できるものになっていない。