担当看護師はカルテの記述から証言を変遷させている
これについて、被害者参加弁護士の上谷さくら弁護士は「判決は雑な事実認定で驚いている」として、次のように話す。
「カルテにはせん妄に関する記載は一切ない。現場責任者である病棟主治医は『4人部屋で満床の中、そんなことをするわけがない』という理由から、被告人に事実関係を尋ねることすらしていない。しかも、この病棟主治医は、医師が冤罪であると訴える『外科医師を守る会』の代表世話人です。
また、担当看護師がカルテに『術後覚醒良好』と書いていたのを、後から弁護士や病棟のスタッフと話して、自分の認識が誤っていた、実際には半覚醒であったと証言を変遷させている。その他にも複数の変遷があったことから、検察官は担当看護師が『被告人に有利な虚偽供述をする動機もある』と指摘しましたが、判決は証言を変えたことについて『相応に説得的』と判断しました。判決は、この2人の証言の信用性を簡単に認めてしまったのです」
警察の手入れが入る前に彼女の写真だけ削除
警察や検察が事件性を確信した背景には、こんな事情もあるという。
「医療行為として、患者の胸部を写真撮影することは当然あり得るが、A子さんの場合だけ、顔を含めた上半身裸の写真を正面から何枚も撮っている。しかも、警察の手入れが入る前に彼女の写真だけが削除されていた。それは復元して明らかになっているが、A子さんに対して性的関心を持っていた状況証拠の一つとも考えられる」(捜査関係者)
この点について、別の大学病院に勤務するある男性医師は、「患者の承諾を得ずに顔の入った裸の写真を撮ることなど、絶対に許されない」と憤る。
被害者のA子さんは控訴にあたり、次のようなコメントを出した。
「私は、被告人から胸を舐められ、すぐに警察を呼んでもらい、DNAを採取してもらいました。そこから被告人のDNAが大量に出たので、警察は被告人を逮捕し、検察は起訴しました。ところが、私は後から病院側の主張により、せん妄の可能性があるということで、無罪判決になってしまいました。
あのDNAの量は、会話による飛沫や、触診では出ないことは明らかであるのに、そこが無視され、証拠もなにもない言質が採用されたのは非常に不当な判決でした。検察が控訴したことは当然であって、控訴審では裁判官が適切な判断をして、有罪判決が下されることを信じています」
上谷弁護士のもとには、被害者を支援したいという弁護士や被害者支援団体からの連絡が相次いでいるという。事件の第2ラウンドは今、始まったばかりだ。
写真=諸岡宏樹