「文藝春秋」7月号の特選記事を公開します。(初公開:2020年6月13日)
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マイクロソフト社共同創業者のビル・ゲイツ氏は、約20年も前から、新型ウイルスのパンデミックに対して警鐘を鳴らしてきた。
「もし今後数十年で1000万人以上が死ぬことがあるとすれば、最も可能性が高いのは戦争ではなく感染力の非常に高いウイルスだろう」
「仮にスペイン風邪のような感染爆発が起こった場合、今は医療が進んでいるからそれほど深刻にならないと思うかもしれないが、世界が密接に結びついた現代だからこそ、世界中の大都市に瞬く間に感染が拡がる」
などと述べ、まさに今日のような事態を“予言”していたのである。
7種類のワクチンへ“異例の投資”
しかも、“口先だけ”ではない。共同議長を務める「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」は、20年以上にわたり、さまざまな形で感染症対策に取り組んできた。その目的は、「検査の拡充」「接触者追跡」「治療薬の開発」だが、なかでも力を注いでいるのは、「ワクチン開発」だ。
通常、ワクチンの開発から普及は、「試作品開発→臨床試験→承認→製造工場建設→量産」という数年以上にわたるプロセスが必要となる。だが、新型コロナウイルスに関して、氏は「一刻を争う」として、この時間を少しでも短縮するために、大胆な行動に出た。
「最終的には1つもしくは2つのワクチンを選ぶことになる」としつつも、それがどれになるか分からない段階で、期待される7種類のワクチンへの投資を決断したのだ。
数千億円の損失は覚悟のうえ
この方法では、選抜から漏れたワクチン候補に費やされた数十億ドル(数千億円)が確実に無駄になる。
だが、そうした「無駄」も覚悟の上で投資を決断したのは、「効果的なワクチンが見つかり早く供給されることで感染症が収束し、経済活動が戻るのなら理に適っている。スペイン風邪では世界で6000万人以上が亡くなり世界の総資産が3兆ドル(320兆円)下落(財団の試算)したのだから、3兆ドルの損失を防ぐのに数十億ドル(数千億円)を使う価値はある」との考えからだ。