「ジェンダー特別補佐官」を設置した張本人なのに

 現在は史上初の3期目で、2022年3月の大統領選挙に向けて総力を注いでいたとも言われていた。別の中道系紙記者は言う。 

「2011年の市長選で、もし、安哲秀代表が市長選の出馬を譲歩しなければ韓国政界はどう変っていたのか、今でも時々話題になります。譲っていなかったら、安哲秀市長が誕生し、その勢いで大統領になっていたかもしれない、と。そんなことを言っても詮ないことですが、朴市長の運命も大きく変っていたでしょう……」 

 故朴市長は大統領候補の常連でもあり、2015年にMERS(中東呼吸器症候群)が広がった際は朴槿恵前政権とは対照的に透明性のある情報公開を実践したことが評価され、当時次期大統領候補1位にもなったこともあった。 

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 故朴市長は、ソウル市庁で「セクハラ、性暴力のない、性平等都市推進計画」を2年前に立ち上げ、女性に関する政策を補佐する「ジェンダー特別補佐官」まで昨年新設し、ソウル市は“女性政策の百貨店”とも呼ばれていたのだが。 

誰が警察情報をリークしたのか

 冒頭の記者会見では、告訴状は7月8日16時30分頃、ソウル地方警察庁に提出したことが明らかにされた。その後、告訴人は1回目の陳述を9日午前2時30分頃まで行ったが、そのおよそ7時間半後、故朴市長は市長公邸を出たまま、行方不明となった。警察は当初、故朴市長に告訴の事実は伝えていないとしていたが、「大統領令」の規定に則り、青瓦台に伝えたことを13日、明らかにした。 

元秘書の担当弁護士らによる記者会見 ©時事通信社

 では、誰が故朴市長へ元秘書の告訴を伝えたのか。 

 前出記者は言う。 

「警察庁から青瓦台へと話が伝わる過程で誰かが本人に伝えたわけです。青瓦台は否認していますが、これは明かな情報漏洩。告訴したことがすぐに伝われば証拠隠滅も可能ですから、あってはならない。市庁舎内で行われた元秘書へのセクハラ行為とそのもみ消し、そして、告訴事実がどう漏れたかなどすべてが明らかになれば文政権にとっては爆風となる」

与党の醜聞が続いている

 2018年には与党「共に民主党」に当時所属していた安熙正前忠清南道知事が性暴行で元秘書により告訴された。昨年3年6カ月の懲役となり収監中。さらに今年4月にはオ・ゴドン釜山前市長が女性補佐官へセクハラ行為をしたと謝罪し、市長職を辞任するという前代未聞の醜聞が続いていた。 

 与党は故朴市長の真相究明には消極的な姿勢を見せていて、進歩派の支持者の中には、「自ら刑を科したのだから、もう終わりにすべきだ」と話す人もいた。本気でこんなことを言っているのだろうか。これはスーパー与党の奢りからでた言葉なのか、韓国の市民運動を率いてきた“運動圏”の過ぎた浪漫から出たものなのか。

 知り合いの会社員(女性、40代)は怒りを露わにしてこんなことを言っていた。 

「自分たちの仲間だから不都合な真実には目をつむるとでもいうのでしょうか。告訴した相手が自死を選んでしまったという、さらなる傷と共に告訴人は生きていかなければなりません 。生涯、市民運動で行政を追及してきたはずの本人が自死という責任の取り方をしたことは卑怯です。

 業績は業績。性被害の真相は真相で、きちんと究明されるべきです」