大手メーカーの広報担当者は匿名でこう話す。
「あくまでも本人の判断ですが、起訴された社員のうち、若い社員は一生出国できないことは不利になると考えて出廷しました。一方で、年配者は、海外に行くことを諦めて出廷しませんでした」
しかし日本にいても、日米は犯罪人引き渡し条約を締結しているため、司法省が引き渡しを求めてきた時、日本政府が応じる可能性がある。起訴されたままのサラリーマンは25人を超えている。彼らは今も収監の可能性に怯えているのだ。
買収されるはずのないアルストムが
著書『アメリカン・トラップ』に戻ろう。
ピエルッチ氏は拘置所で1年過ぎた時、世界最大の総合電機メーカー・アメリカのGE(ゼネラル・エレクトロニック)が、アルストムを130億ドルで買収する意向という報道を見て、驚愕した。GEがアルストム買収を望んでいることは知っていたが、フランスにとって原発にも関係する安全保障上の重要企業でもあり、買収されるはずはなかった。
しかしGEの買収交渉が司法省の捜査と並行して進み、アルストムの臨時株主総会でGEの買収が承認された。3日後、司法省は会見を開いて、「アルストムが贈収賄を認め、過去最高の7億7200万ドルの罰金支払いに応じた」と発表した。
ピエルッチ氏は、司法省の捜査はGEのアルストム買収を有利に進めるためだったと訴え、「アルストムは、司法省に贈収賄容疑で告訴されながら、GE社に買収される5社目の企業だったのだ!」と看破した。実際、アルストム経営陣は免責と引き換えにGEへの売却を進めた、と後にフランスで問題になった。
熾烈なグローバル経済戦争の陰で
司法省のカルテル捜査も同様に捜査対象の9割が日本企業だったため、狙い撃ちされたという見方がある。
「当時、関税を引き下げて貿易促進を図るTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉で、日米間の懸案は自動車部品の扱いでした。アメリカはプレッシャーをかけるために日本の部品メーカーをターゲットにした、と見られたのです」(貿易に詳しいコンサルタント)
熾烈なグローバル経済戦争の陰で、日本のサラリーマンがアメリカの刑務所に収監される。これは今後も起こり得ることだ。