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“非現実”を演じてきた山﨑賢人が“等身大の人間”に…… 映画『劇場』が「コロナ時代の傑作になりうる」3つの衝撃

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 まず、『劇場』の配給元は元々大手映画会社のひとつである松竹であった(後に吉本興業に変更)。この規模を考えると、従来であれば大手シネコンを中心に上映されるべき作品であったはずだ。にも関わらず、作品規模に反してミニシアターをメイン館とするのは、集客のリスクが高まる危険性が出てくる。さらに、映画ビジネスである以上、劇場公開・DVDやBlu-ray販売・サブスクでの配信など、段階を踏んで稼いでいく一連の流れが存在するものだが、劇場に観客がたくさん入っている段階で、DVDやBlu-ray販売・サブスクでの配信を開始するということはまずあり得ない。近年サブスク主流の世の中になってきており、劇場公開終了後すぐに配信が始まるといったケースも珍しくはないが、それでも3ヶ月程のインターバルは設けられるもの。公開同日の配信スタートというのはまず考えられないことである。

「withコロナ」という新時代に向けた“挑戦的な仕掛け”

  しかし、こういった形式になった背景を読み取るのは、そう難しいことではないと思う。ご存知の通り、緊急事態宣言の影響で全国のミニシアターが存続の危機に陥り、「SAVE the CINEMA」と呼ばれるミニシアター存続のための署名活動や、「Mini-Theater AID基金」と呼ばれるクラウドファンディングが行われてきた。今回ミニシアターを中心とした公開へと至ったのは、それらの流れをくみ、疲弊したミニシアターへ観客の足を運ばせるために他ならない。「Amazon Prime Video」での同日配信に関しても、全国の映画館が再開し始めたとはいえ、コロナ感染のリスクが0になったわけではない現状を鑑みると、配信(家など)で観られるメリットは非常に高く、ひとりでも多くの人に作品を届けるといった意味合いや、観客の安全を考慮した最善の選択としか思えない。収益を度外視しているとも取れる今回の英断へと至った行定監督や関係者の皆さんへは、尊敬の念を抱かざるを得ない。

©iStock.com

 まさに既存のビジネススタイルやタブーから脱却し、「withコロナ」という新時代に向けて“ニュースタンダード”確立に挑戦している映画なのだ。

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 又吉直樹が生み出した不器用で未熟で儚くも愛おしい男女の恋物語は、行定勲監督をはじめとしたスタッフ陣、山﨑賢人や松岡茉優をはじめとした俳優陣の手によって血肉を得て、コロナという逆境に晒されながらも、今まさに観客の目と心へ届こうとしている。作品としてのクオリティの高さはもちろんのこと、山﨑賢人の新たな一面をも引き出し、「withコロナ」時代における映画上映の新たな図式を模索するこの作品は、2020年における日本映画史において、欠かすことのできない存在になっていくことだろう。

『劇場』の監督を務めた行定勲(左)と、原作者の又吉直樹(右) ©文藝春秋

 本来であれば「ぜひ劇場でご覧ください」だが、本作に関してだけは、「ぜひご都合の良い方法でご覧ください」と言わせて頂きたい。あなたの目には、一体どのように永田の姿が映るだろうか。

“非現実”を演じてきた山﨑賢人が“等身大の人間”に…… 映画『劇場』が「コロナ時代の傑作になりうる」3つの衝撃

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