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『やまとなでしこ』は、姫・松嶋菜々子の“賢い忠犬”を演じきっている堤真一がとにかく凄い

どこか既視感を覚える『愛の不時着』との共通点

2020/07/13
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 松嶋菜々子と堤真一による『やまとなでしこ 20周年特別編』(フジテレビ系)は2000年に高視聴率を獲得した伝説のロマンティック・コメディー。絶大な人気を誇りながらも出演者のひとり押尾学が逮捕されたこともあってか長らく再放送されることがなかった。それが、このたびのコロナ禍におけるなつかしのテレビドラマ再放送祭りのひとつとしてついに登場したときの世間の盛り上がりといったらそれはもう祭りであった。

 貧しい家に生まれ育ち「お金がすべて」という信念のもと、最高のお金持ちとの結婚を目指して“合コンの女王”となった桜子(松嶋菜々子)と、将来を嘱望された優秀な数学者だったが家の都合で魚屋を継いだ欧介(堤真一)。桜子はてっきり欧介が資産家の医者と思い込みロックオンするが、欧介は桜子の期待に応えようと魚屋であることを隠して医者のフリをしてしまう。魚屋ならではの魚のさばき方がメスさばきと重なるという設定が可笑しい。ふたりはちぐはぐなコミュニケーションを繰り返しながら徐々に惹かれ合い、離れがたくなっていく。

ドラマ『やまとなでしこ』製作発表会見

「姫の忠犬」を徹底的に演じている堤真一の凄さ

 ラブストーリーの出来はヒロインの相手役(王子様)がいかに魅力的であるかに左右されるといっていい。それこそ、先日まで盛りに盛り上がった25年も前の名作『愛していると言ってくれ 特別編』の豊川悦司がそうであった。最近だと『恋はつづくよどこまでも』の佐藤健、『逃げるは恥だが役に立つ』の星野源などもそうで、「ああ、この人と一緒にいたら幸福だなあ」と思わせる人たちだ。この『やまとなでしこ』においても、堤真一はその役割を十分に果たしている。彼の醸し出す朴訥さは安心感そのもの。頭も良くて、いまは街の小売業者だが、数学者になりさえすれば経済的には大逆転というキャラ設定にも夢がある。

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 そうはいっても、『やまとなでしこ』の場合、ドラマを牽引するのは圧倒的に松嶋菜々子なのである。堤の凄さは一見クールに見えて熱情が滲み出る演技のみならず、松嶋が演じる姫(桜子)の賢い忠犬としてのポジションを徹底的に演じていることでもある。小型犬ではなくコリーやシェパードのような頼れる大型犬。ご主人に意地悪されて黒い瞳を濡らしながらも耐える感じが萌える。こんなふうに妄想してしまうのは、堤が『もふもふモフモフ』というペット番組で声の案内人をしているからだろうか。

松嶋菜々子と堤真一 ©Getty/文藝春秋

桜子を見ていて思い出す、2人の“百合”

 松嶋演じる桜子は、昭和のバブルを未だ引きずった価値観の持ち主で、豊かな衣食住を遮二無二求め、ときにはあからさまに、小売業の欧介を小馬鹿にする。その態度は、桜子たちと同時代を生きた者以外、赦せるものではないかもしれない。