いまはむしろ、昔ながらの小売業を大事にしようとする時代である。そのうえ、女の賞味期限は27歳まででそこを過ぎると値崩れするという桜子の考え方は、『逃げ恥』で大絶賛された、アラフィフで独身の百合(石田ゆり子)のセリフ「若さを過大評価していつかはあなたも辿り着く未来を否定する。自分に呪いをかけないで。そんなものからはさっさと逃げてしまいなさい」とは真逆である。
合コン相手に合わせてファッションを徹底的にコーディネートして臨み、一回着た服は二度と着ない。そして「洋服は私のすべてなの。人生そのものなの」と言ってのける桜子には、もう一人の女性を想起させる。
何を言うかではなく、何を着るか、どんな髪型にするか。それが人の心を左右するという考えは母の教えであり、テレビ界で竹村健一から学んだことだった
(「女帝・小池百合子」石井妙子著 文藝春秋)
選挙戦でかつてはミニスカ、いまはマスクと、ビジュアルイメージを押し出して、東京都知事2期目に入った小池百合子氏だ。
若さばかりが価値ではないと言う『逃げ恥』の百合、ビジュアルを大事にする都知事・百合子。奇しくもどちらも“百合”なのだが、『やまとなでしこ』は百合ではなく“桜”子。彼女は00年代を象徴するアイコンでありながら、20年代の今も、いいか悪いかはさておいて、なんだか気になる人物なのである。
最大の魅力は、桜子が“自分にかけた呪いを解かれる”こと
松嶋菜々子がどんなに高飛車に振る舞っても、下品にならず清潔感と可愛げがあり、凛としていることがポイントなのだが、『やまとなでしこ』のもう一つの肝は、若さとお金に物を言わせ、自分が値崩れする前に、資産家と結婚して人生を逃げ切ろうとしていた桜子が、“自分にかけた呪いを解かれる”ことだ。