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性別が変わった私が体感した「女性を見下す視線」と「トランスジェンダーを審査する目」

2020/07/22

「どちらまで?」「〇〇にある××というところまでお願いします」「あー、××ね。あそこきょう何かあるの?」「いや、単に仕事で」

 出張で初めて訪れた土地でタクシーに乗り、運転手さんとこのような会話を交わしました。そこでふと、そういえば最近やけにタクシーの運転手さんからため口で馴れ馴れしく話しかけられる、と気づいたのでした。以前はそうでもなかったのに……。

 そしてはっと思い至ったのです。「ああ、これがそうなのか」と。

 このお話をするためには、私がどういう人間なのかということを少しご説明しないといけないかと思います。「タクシーに乗るとため口で話しかけられる」ということから察していただけるかもしれませんが、私は女です。けれど、多くの女性たちとは違い、ちょっと特別な事情を抱えています。

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「ああ、これが女性は見下されるということなのか」

 私は女で、そしてトランスジェンダーです。

 生まれたときに、体の形状をもとに「この子は男の子だ」と判断されて、男の子として育てられてきました。子どものころからずっと得体の知れない苦痛を感じ続けていたのですが、20代後半でようやく意を決してジェンダー・クリニックに行き、性同一性障害の診断を受けました。その後、担当のお医者さんと相談しつつ少しずつホルモン治療を受けて、体の変化に合わせて服装なども変えていき、30歳ごろに周りにも打ち明けて女性として暮らし始めました。現在は戸籍も変えていて、法的にも女性となっています。

 そんなわけで、私は、人生のある時期までは周りから男のひとと認識されて、けれどある時期からは周りから女のひとと認識されるようになるという、ちょっと変わった経験をすることになりました。だからこそ思ったのです。「ああ、これが女性は見下されるということなのか」と。

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 タクシーでため口で話されることが増えたというのは、本当に強く感じます。私自身は特に仕事を変えたわけでもないし、言動も以前と変わりません。身長などの体格も変わりません。違いらしい違いと言えば、ホルモン治療により顔や体が全体的に丸みを帯び、胸やお尻が膨らんだこと、それに合わせて服も女性ものを着たりするようになったことくらい、だと思っていました。

 でも違うんです。私の体つきや服装が変わっただけではない。周りが私のことを男と見るか、女と見るかが変わったのでした。そしてこの社会では、どうやらそれが大きな違いを生むようです。