『ごんぎつね』『手袋を買いに』のあの童話作家も
ちなみに、もうひとつ安城市には名物がある。それは『ごんぎつね』『手袋を買いに』でおなじみの童話作家・新美南吉。安城駅に隣接する駐輪場の外壁には新美南吉作品のウォールアートが描かれているくらいだ。なんとなく新美南吉は北国の人だと思いこんでいたが(『手袋を買いに』のイメージである)、実際は愛知県半田市出身、安城にあった女学校で教鞭をとっていたことがあるそうだ。そこで安城市は新美南吉ゆかりの街としてもアピールをしている。
安城市にはほかにもいくつかの駅があり、最古の集落に近いのは名鉄南安城駅や新安城駅近くの東海道沿い。次いで東海道線の安城駅が近代都市としての安城市の中心になった。そして1988年に新幹線の三河安城駅が誕生し、新たな拠点になりつつあるということだろう。そういう物語を知れば、「定時通過の車内放送でよく聞くナゾの通過駅」扱いがなんだか申し訳なくなってくる。
三河安城駅が“遅れて”できたワケ
三河安城駅は、新幹線と東海道線がちょうど交差する付近にある。ただ、新幹線の開通時には駅が設けられることはなかった。だから早い段階から地元の人達は「ここに新幹線の駅を作って欲しい」と願っていたようだ。1974年には本格的に駅設置を実現するために「東海道新幹線駅新設期成同盟会」なるものが発足。他の候補地とも比較された結果、1984年にようやく駅建設が決定し、地元が建設費を負担する“請願駅”として1988年に開業した。この時点では駅の周りは田園地帯だったようだが、さすが新幹線、徐々に駅周辺の開発が進んでいった。
新幹線の駅舎から在来線とは反対側の南口を出ると、こちらにも立派なロータリーがあって、その先には東横インやドーミーインなどのビジネスホテルチェーンがいくつか建っている。現在の安城市は近隣の刈谷市・知立市・岡崎市などとともに自動車関連の工場が多く立地している工業都市だから、その新幹線駅の前にビジネスホテルがあるのもとうぜんのこと……。
と、フォローのように述べてみたが、在来線も快速・新快速・特別快速のどれも通過する各駅停車の駅である。ちなみに、名古屋駅までは在来線だと約1時間。それが新幹線だと10分で着いてしまう。やっぱり新幹線はさすが、なのである。
写真=鼠入昌史