文春オンライン

長谷川博己インタビュー「黒沢清監督に衝撃を受けて映画界に」

映画『散歩する侵略者』出演を果たして

2017/09/08
note

新たなフィルム・ノワール

——長谷川さんの出演場面では、とにかく最後のアクションシーンが素晴らしいですよね。ワーッと走りまわって、爆発もあって、驚くほど派手なシーンでしたが、爆発シーンはCGも使われているんですか?

長谷川 違いますよ! 実際に爆破してたんです。でもそうか、そう思われたら嫌だなと思ったんですよね。それだったらCGで見せればいいじゃないかって思いますよね(笑)。

——それは大変失礼しました……。

ADVERTISEMENT

長谷川 いやいや、でも、そういうふうに見られるだろうなと思いながらやってはいたんですよ。とにかくやるほうとしては大変なシーンでした。しかも監督からは「ちょっと笑って走ってください」なんて無茶を言われて、やる前からこれは大変だなと。しかもサングラスをかけていたから視界もそんなによくない。よくコケなかったなと思います。まだまだ身体能力が衰えていないんだなあ、自分で言うのもなんですけど(笑)。

「散歩する侵略者」
9月9日(土)全国ロードショー
©2017『散歩する侵略者』製作委員会
配給:松竹/日活

——リハーサルもかなりされたんですか。

長谷川 リハーサルはしなかったかな。いや、一回だけテストをしたんだけど、そのときに実際に爆破したような気がするな。そこで一応カメラを回しておけばいいのにと思った記憶があるんですけど、基本的に、どんなことがあっても本番でしかカメラは回さないという雰囲気がありました。他の現場だと本番前から回す監督もいますが、黒沢さんは絶対しませんでした。あの爆発のシーンなんて、一発勝負ですから本当にドキドキしました。全部一連でしたからね。結構長回しのシーンで、失敗したら大変なことになるし、緊張感がありました。しかも僕は役の設定上余裕な感じですべてを楽しんでいるように演じないといけない。そこも難しかった。

——桜井の心理状況としてはこういう状態だから笑っていてほしい、というような説明はあったんでしょうか。

長谷川 そういうことはなかったかな。監督がおっしゃっていたのは、「爆破されていくという状態を楽しんでください」ということだけでした。僕も僕で「それってどういう状態なんですか」と聞くわけでもなく、「そうですか、わかりました」って、それだけですね。

——桜井と、侵略者を自称する若者・天野(高杉真宙)のラストシーンがとても印象的でした。

長谷川 僕はこの映画を新しい形のフィルム・ノワールだなと思っているんです。それがもっとも顕著に現れているのがこのシーン。たとえば香港ノワールって、犯罪者とかならず者みたいな、そういう男と男の熱い仁義みたいなものを描く。『散歩する侵略者』の桜井と天野の関係性もそうだと思うんです。彼らは男と男なんだけど、実は天野の肉体の中に入っているのは男でも女でもない。そもそも宇宙人なのかもよくわからない。そういう正体不明な存在と桜井との間にある友情を貫く。これはもう完全にフィルム・ノワールの表現だと。それがすごく新しいし、見ている人もそこに気付いてくれたらおもしろいなと思っていたんですが、まあ言わないとわからないでしょうね。

——お尋ね者として逃避行を続けていくなかで、桜井と天野の間に友情というか特別な絆みたいなものができていくわけですね。

長谷川 絆と言うとちょっと陳腐に聞こえますが、ふたりの間には何かがありますよね。最後に使命というか特別なものを相手に託す。それがあのシーンで象徴されていると思うんです。ふたりが最後の会話をする倉庫みたいなところも、ああ今自分は黒沢映画に出てるんだな、という感じがしました。ちょっと薄明かりの倉庫で、ふたりとも汗ばんでいて。だからあのシーンは大好きなんです。

©杉山秀樹/文藝春秋

―――

聞き手・構成●月永理絵
撮影●杉山秀樹
ヘアメイク●宮田靖士(THYMON Inc.)
スタイリスト●熊谷隆志

※この記事は雑誌に掲載されたものを一部抜粋しています。インタビュー全文は「文學界」10月号にてお楽しみください。

―――

「散歩する侵略者」9月9日(土)全国ロードショー
http://sanpo-movie.jp/

世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌

(著)

文藝春秋
2017年8月31日 発売

購入する

 

長谷川博己インタビュー「黒沢清監督に衝撃を受けて映画界に」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文學界をフォロー