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【必読リスト付き】「やっぱり中国は得体がしれないですね(笑)」ミステリー作家・島田荘司さんが語る、『三体』と華文ミステリー

中国語圏のミステリーが今、熱い!

 全世界で2100万部以上を記録した、中国人作家・劉慈欣のSF小説『三体』3部作。異星人との闘いを壮大なスケールで描く本作は、日本でも昨夏に第1部が翻訳され、13万部と異例の売れ行きを見せた。そして、今年6月18日には待望の第2部『三体Ⅱ 黒暗森林』(上)(下)が発売。早くもシリーズ累計30万部を突破するなど大ヒットを記録している。

島田荘司さん

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――『三体』を島田先生も最近、手に取られたと伺ったのですが。

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島田 今忙しくてなかなか本を読む時間が取れないんですが、読みました。興味深かったのは、第一章で文革(文化大革命)の頃のことが細かく書かれていますね。

 無実の罪で逮捕された少女が拘置所に入れられ、軍の女性幹部から渡された供述調書へのサインを拒んだところ、全身に水をかけられる。そのうえ、布団にも水をかけて去ります。そうすれば、眠りたくても寒くて眠れないわけです。なるほど、上層部の意向に従わない人間にはここまでやるんだな、と。

 文革は一説には7000万人が死んだのではないか、殺されたのではないかと言われています。この国はどんな歴史を持っており、そこで暮らす人々はどんな問題意識を持って生きているのか。教養として知りたいという気持ちが、『三体』が世界的にウケた理由の1つだったのかなというふうに感じました。

――文革の真っ只中だった時代に、中国軍は地球外知性とのコミュニケーションを図っていたという第1章のエピソードが、現代の北京において驚くべき展開をもたらします。

 中国を代表する天才科学者たちの連続自殺事件、ナノマテリアル研究者の汪淼の眼前に減っていく数字が浮かぶ“ゴースト・カウントダウン”現象、地球外惑星での文明創生を試みるVRゲーム「三体」……。冒頭に3つの不可思議な謎が掲げられ、それらが物語の推進力となっている。しかもきっちり謎に論理的解決がもたらされるという点で、ミステリー的な読み心地があるんです。

島田 私が以前から提唱している「21世紀本格(ミステリー)」に近しい部分があるのではないか、という声は耳に入ってきています。「21世紀本格」とはごく簡単にいえば、「本格ミステリーと最新科学の融合」ということなんですが、では「SF」との違いは何かと問われることがあるんですね。これは難しい議論ですから、今回はやめましょう(笑)。

『三体』は、文章がすごく上手でしたね。非常にロジカルでかっこいい文章で、ビックリしました。これはもともと英語で書かれたんですか。

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――中国語で書かれたものが英訳され、両者を底本として日本語に訳されたようです。作者の劉慈欣は1963年山西省陽泉生まれ、発電所のエンジニアとして働きながら『三体』3部作を執筆したそうです。

島田 やっぱり中国は得体がしれないですね(笑)。数学オリンピックなどでも、中国人がすごくいい成績を取っているでしょう? 小説に関しても、中国には天才がいるはずだということを私は繰り返し言ってきました。特に本格ミステリーは「文学」であると同時に、「数学的なパズル」という側面もありますので、こういうものを作ったり解いたりする能力は、中国人はとりわけ高いと思います。

 華文、すなわち中国語文化圏には、眠れる才能がたくさんいる。そういった思いで、島田荘司推理小説賞という新人賞を台湾で立ち上げたんです。