先祖は日本の「新本格」だった
――日本のミステリーからダイレクトに影響を受けたんですね!
島田 新本格の影響から、最初の頃は「館もの」が多かったようです。怪しげな館が丘の上に建っており、作中で館の図面が現れて、やがて密室殺人が起こる。館が円筒形だったりすると、「まさか回るんじゃないだろうな?」と思っていたら「やっぱり回るのか……」と(笑)。今は先ほどおっしゃっていただいた通り、多様性豊かになっていますが。
ただ、中国でミステリーを発表するためには、守らなければならないお約束事があるんです。例えば、北京を舞台にするならば、警察官しか殺人事件を捜査してはいけないんです。名探偵が捜査をして事件を解決するのは、警察官の地位を貶めることになるらしいです。
中国の新人たちともいろいろ話しましたが、「エーッ」と驚くようなことがいっぱいありました。出版社の自主規制なんですよ。政府がガイドラインを出して、「これとこれとこれは駄目」というふうに言うわけじゃない。受け付けて、審査して、駄目な時は駄目と言うだけなので、本当のことは分からないんです。もちろん担当する人にもよるし、時期にもよる。厳しくなったりゆるくなったりする。
私の作品も、例えば『占星術殺人事件』は「絶対に翻訳されない」と昔言われましたよ。あれは、バラバラ殺人でしょう。あんなものを読ませたら、マネする人が出るという理屈でした(苦笑)。ですが翻訳モノは、意外と大丈夫なんですよね。
――それにしても……ミステリーの原点と言っていいシャーロック・ホームズから、一気にジャンプして、新本格以降の日本のミステリーにいきなり接続された。面白い突然変異が起きそうですね。
島田 少なくとも台湾では起きたと思うし、中国大陸でも今後起きると期待しています。先日イギリスとロシアへ行ってみて改めて気が付いたんですが、小説の新人賞って外国にはほとんど存在しないんですよ。ロシアにもフランスにも、ミステリーの新人賞はない。日本にはものすごい数がある、だから日本ではミステリーを書く新人がどんどん現れる。
中国語文化圏では、賞は現れては消える泡沫のようで、安定的に続いている長編の賞は島田賞だけなんです。島田賞が存在する意義は、年々大きくなっていると思いますね。
――華文ミステリーの新潮流なども生まれているのでしょうか?
島田 少し話がズレるかもしれないんですが、日本では公開されていないんだけれども、中国本土で大変人気を呼んでいる『唐人街探案』という映画があるんです。英語で言うと「チャイナタウン・ディテクティブ」。2人組の探偵の話なんですが、ジャッキー・チェンのドタバタアクションのカンフー部分に、ミステリーを当て込んだような、ギャグ的なシリーズです。毎回春節、旧正月の時期に公開されているんですが、昨年公開された第2作は興行収入600億円、中国だけで観客動員1億人を突破したんですよ。
「1」はバンコクが舞台で、「2」はニューヨークが舞台、来年1月に公開される「3」は、実は東京が舞台なんです。