「親子の情」みたいなものはわかるところもあります
――岩手県では、「感染者ゼロ」の状態が半年以上続いています。個人差はあると思いますが、緊張の糸が張りつめて、そろそろ辛いな、疲れてきたな……という人もいるのではないかと。達増知事の現在のご心境としては、いかがでしょうか。
達増 そうですね。過剰に思いつめたり世間体を気にしたりするのは、ないほうがいいと思っています。このところ記者会見などでは、「県としては第1号の陽性者は咎めません。むしろ全力で優しくケアしていきますよ」ということを発信しています。先日、県の対策本部の決定事項として「7月10日以降における留意事項」という文書を発表しました。
〈県内では未だ感染未確認の状態が続いておりますが、県は「感染ゼロ」を目標としているものではありません。〉
〈何よりも大事なことは、「命と健康を守ること」です。発熱等体調の悪い場合には、医療機関の受診をお願いします。〉
こう明言しています。「診療控え」、第1号になりたくないから検査を受けないというのが最も避けたいことです。
昨日7/10、新型コロナウイルス対策について、県の対策本部で「7月10日以降における留意事項」を発表し、県内各団体の代表で構成する「いわて未来づくり機構」で「岩手宣言」を採択しました。感染ゼロにこだわらないこと、感謝と思いやりの気持ちを持つべきこと、東京等感染拡大地域に要注意、等です。 pic.twitter.com/zMdanszHTm
— 達増拓也 TASSO 幸福を守り育てる希望郷いわて (@tassotakuya) July 11, 2020
ただ私も気持ちとして、自分の子供が帰省することで感染を広げさせたくないという「親子の情」みたいなものはわかるところもあります。その意味で「絶対に帰るな」と言う方の気持ちを全面的に否定はしないのですが、かえってストレスやプレッシャーになったり、怖くて検査を受けないということになると本末転倒です。そういう風にならないように、「第1号でも大丈夫ですよ、咎めませんよ」と発信していきたいと思います。
――ああいうツイートだけでなく、「第1号になるのが怖い」という声は届いていますか?
達増 県に対する訴えや要望という形ではないんですけれども、そういう声があちこちであがっているということは数多く聞きます。私自身、会う人会う人から、そういう話も聞きます。企業や団体の関係の皆さんと仕事でお会いした時などに、「うちの会社から出したくない」「うちの団体から出したくない」とおっしゃいますね。
「COCOA」のインストール率、岩手が全国1位
――接触確認アプリ「COCOA」のインストール率、全国で岩手県が1位だったというアンケート結果もありました。県民性と感染者ゼロの関係については、どうなんでしょう。
達増 先ほど申しました「真面目で慎重」という県民性。これが東日本大震災の経験で強化されたと私は思っていまして、それが発揮されているということ。それと同時に、「COCOA」については岩手の意外な「先進性」が出ていると思っているんですよ。世界遺産に「明治日本の産業革命遺産」というのがあるんですけれども、ほとんどが九州と山口県であるなか、近代製鉄の元祖として岩手県の釜石がぽこっと含まれているんです。そういう意外な先進性を岩手は発揮するところがあります。英語で武士道を書いた新渡戸稲造も岩手県出身です。