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奇妙な話を「ギリあるかも」と読者に信じさせる手立て

 物語の展開する場所がどこであれ、次々と突飛な出来事が起こり、読む側の感覚がジワジワ少しずつ狂わされていく。そんな高山作品特有の読み心地は、今作でも健在。そもそも主人公・未名子の仕事からして、公のものではない資料館の整理やオンラインクイズの出題と、ありそうでなさそうな……。絶妙なところを突いてくる。

「そう、これは未名子の仕事に限らず小説の中で起こることすべてに言えるんですが、『あるかな、ないかな、いやギリギリあるかもな。自分の身にだって起こり得るぞ』というラインを探ってあれこれ考えたりはしますね。ギリギリを狙わず『それはないだろ』ということを書くと、ああおもしろいことを書こうと狙ったんだなと思われて終わりになってしまいそうなので。

 まあそれでも、あらすじなどにまとめられたりすると、『絶対ねぇよ』みたいな話に聞こえてしまうんですけど」

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 奇妙な話を、「ギリあるかも」と読者に信じさせる手立ては、小説家としての腕の見せどころだろう。高山さんが講じる手は、大きく2つあるという。

 ひとつは、状況や出来事の細部までを、きっちり書き込むこと。

「細部を書き込まないと、本当にただおかしな話になってしまいますからね。ですから話が奇妙な方向に行く直前なんかは特に、地ならしじゃないですけど、描写がやけに丁寧になることがあります。そのあたりの私のクセに気づいている読者の方も、いらっしゃるかもしれませんね。『あ、こいつ、そろそろ離陸しようとしてるな』って(笑)」

 

 不思議な出来事を小説内に「在らしめる」ための、もうひとつの手段。その人物の「鈍さ」にフォーカスすること。

「小さいことに動じないというか、何でも受け入れる人を主人公にしていることが多いです。そうすると、ちょっとくらいヘンなことが起きても流してもらえるので。結果的に、相当鈍い人ばかり書いている気がします(笑)。自分もどちらかというとそういう性格なので、それがそのまま反映されているのだとも言えそうですが」

宮古馬に託したもの

 不思議な出来事として今作で印象的なのは、未名子が宮古馬と遭遇する場面。逃げてきた馬がたまたま庭先にいるというのは、まあ、あり得なくもないのだろう。そのシーンを読むと、馬の存在感が強烈に頭に残ってしまう。

「私の作品ではこれまでもわりとよくヘンな動物が出てきます。小さい虫に始まり犬や猫くらいの大きさのものまで。今回はこれまででいちばん大きい動物の登場です(笑)。

 馬って、人間に扱いきれるかどうか、ギリギリのサイズじゃないでしょうか。そういう生き物がいきなり現れたとき、人の心の中はどう動くか知りたかったんですよね。

 それに馬は、人間の文化文明と関わりが深い。乗り物にしたり、農耕などに使役したり……。人間と長い時間をともにしてきたこの存在と、人はどうやって関係性を築いてきたか、また絆を保っていくんだろうということも気になりました。

 

 沖縄に行ったとき、かつて存在した琉球競馬の話を聞いたり、資料を読み、その場を見たりして。いまは途絶えて、跡地に塚があるくらいになっているんですが、その場を訪れると、以前はここらにたくさん馬がいて、人も集まっていたのかと妄想してしまった。時代をちょっとズラせば、ここに馬が群れていたのかと思うと、その情景に気持ちが沸き立ちました。それが沖縄という土地を書きたいなという気持ちのもとになっていった感じですね」

 なるほど、馬が「場」への強い関心を連れてきてくれた側面もあったというわけである。