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「場」を書けば「人物」も描き出せる

「孤独であることは、この仕事をするためにとても重要な要素なのだと未名子は考えていた。」(『首里の馬』より)

 まずは「場」へのこだわりがある。そんな高山作品は、小説の世界の中で異質に映る。というのも小説はふつうまず人間に、とりわけその内面に、スポットを当てようとすることが多いから。

「そうですね。私ももちろん人間の内側も書きたいと思います。そのためのアプローチとして、場を描こうという気持ちになるんです。

 内側を書くためには、まず目に見える外側をどんどん書いていけばいい。そうすれば、彫り物のように内側のかたちが浮かび上がるんじゃないか、と信じているところがあります。私小説的な考え方だと、『まどろっこしいやり方』と言われかねないな、とも思いますけれど」

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 そうか、高山さんは風景を描くことで、人間の輪郭も彫り出していたということ……。

「風景というのも結局、完全に客観的なものなんかじゃありません。誰かが見ているものなのであって、同じところから眺めていても風景は人それぞれ違うんですよね。ですから自分から見えているものを書けば、自分というものはわかるはず。その人を囲む風景を前後左右隈なく書けば、きっとその人の像は浮かび上がるのだと信じている、というか。

 

 いや自分で言っていても、何てまどろっこしいやり方なのかと思います(笑)。読む方にもまどろっこしさを感じさせてしまうのでは? という心配は、いつもあります。それで、スラスラ読んでも楽しんでもらえるようにと、どんどんヘンなものを登場させてしまうという側面もあるんですよね」

次の作品では「東京」を描きたい

 高山さんの次なる作品の構想も、場所を巡ってのものになりそうである。焦点を当てる土地は、高山さんが住んでいる東京だ。

「東京を書きたいと思い始めたのは、ここ1、2年のこと。築地の市場がいきなり更地になっていたり、渋谷駅前が行くたびにかたちを変えたりしていて、2020年のオリンピックに向けて進められていた再開発は相当な規模のものだなと感じました。

 これ、書いておかないと忘れちゃうぞ……! そう強く思いました。ほらよく身近な角地が更地になると、前に何があったかすぐ忘れてしまったりするじゃないですか。あれがものすごく大規模に起こっているわけで。

 主人公がどんな人物なのか、いつごろ書き上がるのか。すべてはまだ未定ですが、書きたい場所が思い浮かんでいるというそれだけで、いまはうれしい気持ちでいますね」

 

写真=鈴木七絵/文藝春秋

【第163回 芥川賞受賞作】首里の馬

高山 羽根子

新潮社

2020年7月27日 発売