「あまりの激務で何度も辞めようと思いましたが、上から『いま辞めたら、他のところでも通用しないぞ』と半ば脅しのように言われて……。新卒で入ったので3年は同じ職場を続けないと、次の仕事は見つからないだろうなと我慢していました。最終的に耐えられなくなって辞めたのは、料理長の暴力が原因です。ちょっとしたミスで殴られたり、蹴られたり……。脚を蹴られて医師から打撲と診断されたこともあります」(元社員・Aさん)
働き方改革――。目下、安倍政権の最重要課題である。電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が2015年に過労自殺したことなどを受け、昨年9月には安倍晋三首相自らが議長に就く「働き方改革実現会議」も発足した。
「国民への見栄えがいい上に、大きな予算を必要としない。このため、安倍首相は労働規制に否定的な財界の反発を押し切って『働き方改革』を進めています。働き方改革担当大臣に就いたのは、財務官僚出身の加藤勝信氏。派手さはありませんが、堅実な仕事ぶりで首相からの信頼も厚い。最近あまり表舞台で注目されていなかった旧労働省は、長時間労働を是正するためのGメン(労働基準監督官)を100人増員要求するなど、すっかり張り切っています」(大手紙政治部デスク)
厚労省は、長時間労働や賃金不払いなど労働関係法令に違反した疑いで送検された「ブラック企業」の一覧を公表している。ところが、ブラック企業は後を絶たず、さながらモグラ叩きのようになっている。
あろうことか、「働き方改革」を掲げる安倍首相がいきつけにしている赤坂の日本料理店も、内実は超絶ブラックなのだという。
労働者の相談窓口となっているブラック企業ユニオンの青木耕太郎氏が語る。
「都内に日本料理店『京都 瓢喜(ひょうき)』などを展開している株式会社STYLE-RANGE(以下スタイル社)です。瓢喜赤坂店は安倍首相のお気に入りで、今年の7月だけでも2回も足を運んでいます。
しかし、同社では毎日15時間程度の長時間労働が当たり前となっている上に、残業代は支払われていません。昨年の新入社員15名はすでに全員が退社済み。今年入った調理師6名も、すでに5名が辞めています。若者を正社員として使い潰す、典型的なブラック企業です」
赤坂店で勤務していた前出の元社員・Aさんは、「安倍首相ですか? 確かにいらっしゃっていましたね。例年、年始には、40人ぐらい入れる大部屋を貸切で使われています。SPさんが4人ぐらいいて、お店の入り口などに立っていたことを覚えています」と証言する。
しかし、店の労働環境は冒頭にあるように極めて過酷だったようだ。
スタイル社は2003年に京都で創業。同じように「ブラック企業」として社会問題となった居酒屋チェーンのワタミや牛丼チェーンのゼンショーと違って、こちらは客単価が10000円を超す高級店を展開している。「出汁しゃぶ」や懐石料理を売り物にしており、有名プロ野球選手や人気俳優が来店することもあったという。現在、都内10店舗、京都市内と中国・北京市内に1店舗を構え、急成長を遂げているベンチャー企業である。しかし、その原動力となってきたのは人件費の不払いをはじめとする違法な労務管理だった。