労基署からは「是正勧告書」
スタイル社のウェブサイトや社長ブログを読むと、ニューヨーク出店のための視察旅行の様子や〈働き方改革を日本料理業界に持ち込む(中略)まず手をつけたのは労働時間の短縮です。創業時から週休2日を徹底し、営業時間も昼の部、夜の部で合計2時間短縮しました〉〈3年で転職を繰り返している人はその仕事のうわべだけで、奥にある、本当の仕事の≪奥義≫的な所までたどり着けず、誰でもできるレベルで終わってしまっている大変残念な社会人人生になりがちです〉といった“経営哲学”が綴られている。しかし、足元の法令遵守、待遇改善にはあまり関心がないようだ。
今年の6月末、中央労働基準監督署は、残業代未払いなど労働基準法の4項目に違反しているとして、スタイル社に対して「是正勧告」を出している。こうした批判の声に経営者はどう答えるのか。
スタイル社の中嶋一生社長を本社前で直撃した。
――月350時間を超える長時間労働が常態化していると聞いています。
「そんなことはないです」
――(労働時間の上限を定めた)36協定違反の長時間労働が問題になっている。
「長時間労働が問題になったのは管理職ですね。そこは是正したいと考えています」
――未払いの残業代については。
「それはお支払いをするという方向で調整を進めています。ただ、350時間ということはありません」
――休みが月に3日しかなかったケースもあったと聞いている。
「そんなことはありません。確かにお店が忙しい時期もありますが、それでも全員ではありませんし、3日しか休めないということはありません」
――昨年度の新入社員15人は全員辞めてしまったと聞いている。
「そうですね。その前の年に入った社員は、まだ辞めていない人もいますが」
――それはなぜでしょうか。
「なぜでしょうか……。うまく指導できなかったのだと思います」
(スタイル社に改めて質問状を送ったところ、書面を通じて「労働時間については争いのあるところであり、現在団体交渉において協議をしているところでもありますので、回答は致しかねます」「入社前に固定残業代について記載された労働条件通知書を労働者に送付しております」「暴力行為があったことは把握していますが、詳細についてはプライバシーの関係もあり回答は致しかねます」と回答した)
現在、谷田さんらは労働組合を結成して、会社側と未払い残業代などについて団体交渉を行っている。しかし、中嶋社長は再三の要請にも関わらず交渉の場に自ら出席せず、直撃取材に対しても他人事のような言葉を繰り返すばかりだった。
「数多くのブラック企業と対峙してきましたが、スタイル社ほどの長時間労働はあまり例がありません。私たちが相談を受けた社員の一人は、過労のあまり自転車に乗っている最中にブラックアウトが起きて転倒してしまったそうです。タイミングによっては、死亡事故になってもおかしくなかった。彼はまだ体力のある20歳でしたが、それでも心身を蝕まれてしまったのです。現在も治療を受けています」(前出・青木氏)
残念なことに、スタイル社のケースは氷山の一角である。「飲食業は、コストの大半を人件費が占める。そこを削るために、悪質な手法を取り入れている企業も少なくない」(前出・竹村弁護士)という。
「この業界に蔓延している長時間労働の体質を改善してほしい。社長にも、早期解決のため、私たちとの交渉に応じてほしいです」(谷田さん)
悲痛な声は、安倍首相のもとに届くだろうか。