「地位を利用して患者にわいせつ行為をするような人間は許せない」
一審の構造は、A子さんはせん妄の影響を受けていた可能性があるので、「証言の信用性には疑問がある」とされた。それでも、信用性が肯定できるというには、「その証言から独立した証明力の強い、その信用性を補強する証拠が必要」とされ、アミラーゼ鑑定などについても疑義があるし、「信用性があると仮定しても証明力は十分と言えない」というものだった。
これに対し、控訴審の構造は、「A子さんの証言は客観証拠と符合しており、直接証拠として強い証明力がある。アミラーゼ鑑定、DNA鑑定、定量検査結果は、科学的な厳密さの点で議論の余地があるとしても、A子さんの原審証言と整合するものであって、その信用性を補強する証明力を十分に有する。したがって、本件の事件性については、合理的な疑いを容れない立証がある」というものだった。A子さんが幻覚を見たわけではないことを、はっきり認定したのだ。
被害者参加弁護士の上谷さくら弁護士は次のように話す。
「今回、私たち被害者の代理人は多くの医師と面談して徹底的に勉強し、被告人は控訴審で逆転有罪になるという確信を得ることができました。つまり、私たちに協力する医師がたくさんいたということです。看護師さんたちからも、『医者が患者に絶対わいせつ行為をしないなんてことはあり得ない』というエピソードをたくさん教えてもらいました。多くの医師や看護師の方々が協力してくださり、地位を利用して患者にわいせつ行為をするような人間は許せない、頑張ってほしい、という励ましに支えられて頑張ってきました。その方たちに感謝したいです」
医師会は異例の声明を出したが……
となると、これは果たして冤罪なのか。男性医師の弁護団は「冤罪を放置するわけにはいかない」としているが、通常あり得ないほどの自分の体液がたっぷりと検出された被害者の左乳首をどのように説明するのか。
「男性医師はなぜ手術した右胸とは反対側の左胸側にいたのかについて、何ら合理的な説明をしていない。さらに男性医師は、A子さんを手術台に座らせ、上着を上げて両胸を露出させている写真を撮影し、そのうちの3枚はA子さんの顔面入りで正面から撮影していた。そのことについて、男性医師は『トリミングすれば良いと思っていた』と供述しているが、その割には捜査時にはA子さんの写真だけが削除されており、A子さんの写真画像の中に捜査機関に見られたくないものがあったということを認識していたとみられる。性的感情を抱いていた男性医師が、A子さんが麻酔からの覚醒過程にあることから、それを絶好の機会ととらえ、本件犯行に及んだものと考えられる」(捜査関係者)
だとしたら、とんでもない職権乱用だ。真面目に働いている全国の多くの乳腺外科医たちの信用を失墜させる行為だ。7月15日、日本医師会の中川俊男会長は、控訴審判決について「身体が震えるほどの怒りを覚えた。日本医師会は判決が極めて遺憾であることを明確に申し上げ、今後全力で支援する」と異例の声明を出したが、医療界にとって患者の信頼を取り戻すための「断罪」こそが先決ではないのか。