ビジネスとして成立するのか?
「ビジネスとして成立させるのは難易度が高いんですよ。それは、機体の維持や燃料費など固定費がたくさんかかるから。大手エアラインやLCCはゴールデンルートを決めて、びっしり席を埋めて飛ばして、それでようやく黒字になる。小型機は座席数も飛ばす頻度も少ないので、採算ラインに乗せるのは簡単じゃありません。それで、まずは富裕層向けの会員制にしてビジネスとして成立させることを目指していますが、日本には小型機をチャーターするという文化がないので、そこからチャレンジしなくてはいけない」
欧米では富裕層の乗り物として小型機やヘリコプターは一定のニーズがありそうだが、永堀氏が指摘するように、日本ではそもそも小型機が空を飛んでいる印象がない。その理由は、これ見よがしな贅沢を避ける日本人の気質に加えて、参入障壁の高さがあった。
「弊社の事業を始めてみてからわかったことですが、まず航空法のレギュレーション上、保安検査など大手エアラインとほぼ同じ手続きが必要になるので、日本国内でチャーター便を飛ばすこと自体、難易度が高いんです。さらに、日本全国で100箇所弱の空港があるのですが、空港ごとに利用の申請方法、期限などがバラバラで、大手エアラインが使う空港以外は、ひとつひとつの空港に確認して調整しなくてはいけません。これまで誰もこういった情報をまとめてこなかったこともあり、海外の競合他社も日本に参入できなかったんです」
神戸ー出雲なら約1時間
誰もやってこなかったのはニーズがないからと捉えるか、誰もやってこなかったからこそ市場が広がっていると考えるか。永堀氏は後者だった。それは、自身が小型飛行機を使った旅と移動に魅了されたという証でもある。
まず、移動時間が劇的に短縮される。新幹線なら4時間かけて移動する神戸ー出雲間が、小型飛行機を使えばわずか1時間弱。時間に追われているビジネスパーソンにとって、無視できない時間差だろう。もうひとつは、空から見る風景。通常の旅客機よりも低空飛行するため、移動中、窓から海に囲まれた日本列島を眺めることができる。もともと「景色に興味がないタイプ」だった永堀氏も、エメラルドグリーンの海に浮かぶ島々を見て、思わず「これはすごい」と感嘆の声を上げたという。
どちらも一度体験すれば、その魅力に取りつかれるはず。そう確信した永堀氏は、この手つかずのブルーオーシャンで市場を押さえるために、すべての空港の情報を集めてデータ化し、紐づけてアプリにした。このアプリはいずれ、大手エアラインの運航情報ともリンクさせて、小型機と合わせて最適なルートを提案するようになるという(iPhoneアプリのダウンロードはこちらから)。
スカイトレックは昨秋から限定200口の会員募集を始め、今年の8月にサービスがスタートした。会員数は非公表だが、永堀氏は「当初の想定より、いい反応を得ている」と手応えを口にする。同社にとって、この事業は重要なファーストステップであり、試金石だ。
「いずれは、もう少し価格が低い準会員の募集やインバウンドの取り込みも考えていますが、海外進出も大きな目標です。例えば、東南アジア、中国も日本と同じく参入が難しいがゆえに、小型機での移動という市場が開拓されていません。弊社の日本でのサービスを起点にして、将来的には小型飛行機を使った移動のネットワークを世界に張り巡らせたい。いずれはUber(ウーバー)のような形で新しい空のインフラになることを目指しています」
「瀬戸内海で水上飛行機を飛ばしたら面白い」という思い付きから始まった、この挑戦。未知なる航路のその先に広がるのは、どんな景色だろうか。
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※(株)スカイトレックは旅行会社であり、チャーターサービスの運航は(株)スカイトレックが契約する航空運送事業者が行います。
スカイトレック https://skytrek.co.jp/