文春オンライン

「自分はなんて駄目なんだろう」 三浦春馬さんが語っていた“劣等感”と“将来像”

2020/07/21
note

子役時代の恩師が病床で最後に掛けてくれた言葉

 2012年には彼にとって大きな転機となる出来事が起きていた。彼がその話をしてくれたのは、誰かに影響を受け、その結果自分が大きく変わったという経験はあるかと尋ねた時のことだ。

 地球ゴージャスのプロデュース公演『海盗セブン』の稽古をしていた時、児童劇団で演技指導を受けた恩師の容体を知らせる連絡が入った。

「村木さんといって、現場にいつも付いてきてくださった講師兼俳優の方です。今の僕のサインを一緒に考えてくれた方で、僕が14歳で児童劇団を離れたあと、長年連絡を取っていなかったんですね。その人がもう助からない末期がんだと」

ADVERTISEMENT

 子役時代の彼を親身になって世話した村木勲さんは、心配を掛けたくないという思いから「春馬には絶対に連絡するな」と周囲に釘を刺していたそうだが、関係者から連絡を受けた彼はその病室をこっそり訪ねた。

©文藝春秋

「行ったら、信じられないっていう顔をしてましたね、村木さん。そこで最後に言ってくれた『絶対に焦るんじゃないぞ』という言葉を、これから先も思い出しながら、ずっと自分の糧にしていくんだろうなと思います。忘れられません、その言葉が」

「今、正直に生きていますか」

 そういった経験を経て、彼は自分自身のペースを見出すようになり、2016年のミュージカル『キンキーブーツ』では力強い歌声とともにドラァグクイーンを演じ、読売演劇大賞杉村春子賞を受賞するなど高い評価を得ることとなった。彼に初めて取材をしたのは彼が20歳の時だったが、20代半ばを迎えたこの頃には、彼はもう実力派の俳優として確固たるキャリアを歩みはじめていた。

 2018年の取材の際に、彼にこう問いかけた。今、正直に生きていますかと。これは『こんな夜更けにバナナかよ』において、彼の役柄が「お前は正直に生きているのか」と問いかけられるのに応じた質問だった。彼は答えた。

「今は本当に正直に生きています。僕は思ったことをわりと抱え込んでしまうタイプだけど、何も溜め込むことなく、すごく健全に、いい仕事、いい生活ができている。これから先も溜め込まなくていい仕事、溜め込まなくていい人生を送れるような仲間やパートナーと一緒にいられたらいいなと思います」