昨季は開幕4番を務めた左の大砲は今……
突然だけど、昨季開幕戦の巨人クリーンナップを覚えているだろうか?
高橋由伸監督の初陣となった2016年3月25日のスタメンは「3番遊撃坂本勇人、4番一塁ギャレット・ジョーンズ、5番二塁ルイス・クルーズ」だった。ちなみに翌26日には北海道新幹線が開業している。わずか1年半前の出来事なのに妙な懐かしさすら覚えるこの感じ。2017年夏、巨人1軍の助っ人野手は気が付けば二塁に定着したマギーのみ。結果的にポジションを奪われた形になったクルーズはすでに楽天へ移籍したし、外国人枠争いに敗れたギャレットも今季1軍出場なしだ。
切なくなって、Twitterで「ギャレット」と検索すると現れたのは『ギャレット ポップコーンショップス』の公式アカウントだった。目の前の勝利と報酬のためにはるばる日本へやって来て、過去でも未来でもなく、徹底的に今を生きる男たち。プロ野球助っ人選手の生存競争の激しさを痛感する。
そんな中、久しぶりに背番号5が東京ドームへ帰ってきた。とは言っても、1軍ではなく、23日と24日に行われた8月恒例の巨人ファーム本拠地開催試合でのことだ。2軍選手がいつものうだるような暑さのジャイアンツ球場ではなく、死にたいくらいに憧れた空調完備の東京ドームでプレー。試合前には若手たちが巨大なオーロラビジョンの映像を物珍しそうに眺める姿はもはや定番の風景だ。
毎年、この“初めての東京ドーム”では期待の若手投手がファンに向けて挨拶代わりにお披露目される。過去にも新人時代の田口麗斗や宮国椋丞、そして今年は大江竜聖や高田萌生といった高卒ルーキーたちが先発マウンドへ上がった。いわばチャレンジシリーズとも言える試合で、2試合とも「3番DH」でスタメン出場して、初戦にはライトスタンドへ意地の一発を放ったのがミスターナイスガイことギャレットだ。今季イースタン55試合、打率.274、10本、32打点、OPS.885。開幕直後に左手を骨折するアクシデントにも見舞われたが、6月から2軍戦に復帰してからはチーム最多の10本塁打とパワフルな打棒を見せている。
運命を分けたのは昨季のポストシーズン
『メジャー122発 由伸巨人 クルーズとW獲り』
今でも2015年12月9日に朝起きてスポーツ報知の一面を目にしたときの高揚感はよく覚えている。紙面には派手な見出しとともに「巨人が来季の新主砲候補に前ヤンキースのギャレット・ジョーンズ外野手(34)をリストアップしたことが8日、明らかになった。12年にはパイレーツで4番を務めるなど、メジャー8年間で通算122発を誇る」と書いてあり、これはジャイアンツ球場のベンチで呑気に屁をこいていたフランシスコとは違うぞと巨人ファンも期待に胸を躍らせたものだ。
だが、阿部慎之助の代わりに「4番ファースト」を託された1年目の序盤は慣れない東京ドームの照明と一塁守備にも戸惑い、極度の打撃不振で2軍落ち。なんだよまたこのパターンかよと周囲は絶望しかけるも、ギャレットは腐らなかった。約2週間後に外野手として再び1軍に這い上がると、横浜スタジアムでの3打席連続アーチ等、終わってみればリーグ7位の24本塁打と意地を見せた……はずだった。しかし、運命を分けたのはクライマックスシリーズの大不振だ。対DeNA戦では10本塁打の無類の横浜キラーとして期待されながらも、徹底的にマークされCS3試合で11打数無安打と完全に攻略されてしまう。結局、チームも敗れ、球団はオフにマギーを獲得するわけだ。厳しいようだが、助っ人選手は短期決戦の活躍がその運命を左右する。
ギャレットはグラウンドを離れたら気の優しい愛妻家。練習は真面目にやるし、日本野球を見下しているような雰囲気もない。試合開始直前までベンチ前で猛烈な素振りをかます元メジャーリーガー。そのB級アクション映画の主人公のような真面目で優しそうな風貌からも滲み出るイイ人感。けど、助っ人選手に求められるのは人の良さよりも相手をビビらせる迫力と怖さだ。大一番の勝負どころでは時に「イイ人」というのは頼りなくも見えてしまう。いつの時代も、おネエちゃんにフラれる台詞第1位は「イイ人だけど……ごめんなさい……」である。