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“職業・中継ぎ投手”西武・平井克典 “生意気な男”の苦悩と変化

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/16

 今季のライオンズは、中継ぎ投手が注目を集めています。防御率1点台の守護神・増田達至投手と、160km/hの速球を投げ込むギャレット投手と平良海馬投手。

 そんななかで近年、ライオンズファンにとって中継ぎ投手の価値を見直すようになったきっかけは、平井克典投手だと思います。

 僕(あさりど・堀口文宏)はテレビ埼玉でMCを務める番組「ライオンズチャンネル」で、「平井投手を推している」と公言しています。でも正直、平井投手との出会いは決していいものではありませんでした。

 初めてインタビューしたのは2017年の合同自主トレ。新人選手にインタビューするのは、僕も緊張します。少しでも話が盛り上がるきっかけになればと、収録前、アイドリングトークで自分の仕事について振りました。僕は三重県で旅番組を6、7年やらせてもらっているので、ホンダ鈴鹿出身の平井投手と話が合うかもしれないと思ったんです。

「僕、三重県で旅番組をやっているんですよ!」。そう話しかけたら、予想もしない答えが帰ってきました。

「ああ、なんか見たことあるかもしれないですけど、堀口さんのことは知らないです」

 いやいやいや、あなた、それは社会人で3年揉まれた25歳の受け答えじゃないでしょ。もし知らなかったとしても、それなりの言い方があるだろ! 言葉は悪いですけど、「常識を知らねえ若者が入ってきたな」と思いました。

ホンダ鈴鹿出身の平井克典

生意気な新人の「背水の陣」

 シーズンが始まると、5月23日に1軍昇格。「すげえな。こんなに早く上がってきたか、あの生意気な新人が」と思いました。

 デビュー戦となった5月27日の楽天戦では2死満塁のピンチを招きましたが、1イニングを無失点で切り抜けます。腕をしっかり振っているし、とにかくスライダーがキレキレ。左の岡島豪郎選手に、インコースに食い込んでくるスライダーで空振り三振をとったのを見て、これは面白いピッチャーだなと感じました。

 それから登板を重ねるたび、表情に余裕が出てきたように見えました。僕の中で最初は尖った印象だったのが、柔和な顔に見えてきた。自信をつけていく中で、謙虚な青年に見えてきました。

 社会人出身でドラフト5位の25歳って、ある意味、「背水の陣」じゃないですか。実際、本人に話を聞いたら、「あの年でドラフトにかからなければ、野球をやめて社業に専念しようと思っていた」そうです。そういう状況でプロ入りした投手が、野球をどんどん楽しんでいるように見えてきたんです。

 1年目はビハインドでの登板が多かったけど、9月くらいから勝っているゲームでも投げるようになりました。あれよあれよという間に42試合に登板。これはすごい活躍だなと思う一方、世間の評価は低いように感じました。

 例えば同点の7回、1点もやれない2死満塁の場面で平井投手が出てきて、1人のバッターを打ち取ります。その裏、中村剛也選手のホームランで勝ったとします。中村選手はその前の3打席で3三振していても、7回の打席で1本打ったら新聞の一面を飾る。でもピンチを抑えて流れを呼び込み、勝利投手になった平井投手はこれっぽちも記事にならない。 

 もちろん新聞社の事情もわかります。新聞を売らないといけないので、ネームバリューの大きい選手が大きく扱われます。

 芸能界も似ていて、ネームバリューのある人には敵わないときもあります。それは仕方なくて、自分がビッグになるしかないんです。

 だから1年目の平井投手と大ベテランの中村選手で、新聞で大きく扱われるのが中村選手になるのはもちろん理解できます。そうであるならば、ライオンズの応援番組をやっている僕が、平井投手を代表として中継ぎピッチャーにもっと目が向くように、ファンの人にレールを敷きたいと思ったんです。

芸人として尊敬する、中継ぎ投手の大仕事

 2年目はシーズン中盤くらいから、勝っている試合で投げることが多くなりました。平井投手がピンチを凌いでベンチに戻ってくると、チームは盛り上がり、次の攻撃で逆転する。直後、ファンがツイッターで盛り上がるのは、逆転した打線についてです。

 もちろん、気持ちはわかります。でも、抑えた平井投手もすごいじゃん! 一人でそう思っていました。

 中継ぎ投手が登板するのは基本的に、先発投手が打たれた後やピンチの場面です。そんな状況で平井投手はマウンドに上がり、抑えていくわけです。

 これをお笑いにたとえると、自分の出番の前の人が駄々滑りして、客がドン引きするなか、「次はどうぞ、堀口さん!」と言われて出ていき、笑わせないといけない状況です。そこから起死回生でドカーンと笑わせて、大爆笑をとって帰ってくるなんてなかなかできないけど、平井投手はやってのけるんです。

 このたとえが浮かんでから、改めて中継ぎ投手はすごい職業だと思いました。「ポジション」とかじゃない。中継ぎ投手という「職業」ですよ。