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“職業・中継ぎ投手”西武・平井克典 “生意気な男”の苦悩と変化

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/16
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 3年目の昨年、平井投手はシーズン序盤から勝ちパターンの一角をつかみました。「ライオンズチャンネル」では毎月「ファンが選ぶ月間MVP」を選出していますが、6月、平井投手が中継ぎ投手で初めて選ばれました。これが本当にうれしかった。ついに中継ぎ投手に光が当たったんです。

 昨年の平井投手はイニングまたぎが当たり前で、「いったい何試合投げるんだ?」というくらい投げていました。登板過多が話題になるなか、僕も平井投手とよくやりとりしていました。

「今日は疲れているでしょ?」と振ったら、「全然疲れてないっす」。「本当は疲れているでしょ?」と突っ込むと、「いや、ホントに疲れてないんですよ」とクールな表情で返ってきました。

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 あくまで僕の推測ですが、「疲れてない」というのは、たぶん体のことです。体としては投げられるから「疲れてない」と言うけど、精神的には疲れていたと思います。

 この年は結局、81試合に登板してパ・リーグ記録を樹立。でも、防御率はプロ入り3年間で一番悪くて、本人は満足していないところもあるように感じました。

 そんな平井投手を見ながら、改めて気づいたことがあります。人間には体と心、二面があるじゃないですか。これが両方合わさらないと、人間ってパワーを生み出さないんだなと。それがよくわかった2019年のシーズンでした。

苦しむ今季の成長と、メッセージ

 そうして迎えた4年目の今季が始まる前、平井投手は「お尻に火がついています」と話していました。年俸1億円になった彼のお尻に火をつけたのは、平良海馬という存在です。

「若手にああいう生きのいいピッチャーが入ってくると、当然、火がつきます。僕はその年の成績が悪ければクビになると、毎年思って投げています。それは1年目から思っていることで、今年も同じです」

 そんな話を2月にしていました。でもオープン戦でなかなか調子が上がらず、コロナの自粛期間を経て、6月にいよいよ開幕を迎えます。

 去年は8回に投げることが多かったのが、今年はある意味、去年より厳しい役割を任されるようになりました。例えば先発投手が6回まで持たなかった場合、7、8、9回の「平良、ギャレット 、増田」につなぐ“誰か1人”になる。試合終盤に向け、荒れた土地をトントントンと平らにするような役割です。

 去年と違って投げるイニングが決まっていない一方、出番が回ってくるのは必ず勝ちゲーム。しっかり後ろにつながないといけない。大変な役割だと思います。

 ペナントレースが50試合に近づくなか、平井投手は思うように成績が上がらず、防御率は4点台。僕も、もどかしく見ています。

 でも、これまでいろんな壁を乗り越えてきた平井投手なので、今年も乗り越えるはずです。成績には表れていないかもしれませんが、確実に成長しています。

 例えば6月30日のオリックス戦。7回2死2塁からセカンドの外崎修汰選手がゴロをファンブルすると、次の打者に対する前、外崎選手のほうを向いて微笑みかけたんです。まるで子どもに対して、お父さんが「大丈夫だよ」って微笑みかけるような感じで。そんな顔、今までしたことなかったじゃん!

 7月2日のオリックス戦では5対3とリードした7回、1死2塁から中村選手がサードゴロをファンブルしました。すると今度は中村選手に対し、帽子をとって笑顔で会釈したんです。「中村さん、大丈夫ですよ。いつも助けてもらっているんで」みたいな感じで。表情のレパートリー、増えているじゃない! テレビで見ている僕までうれしくなりました。

 ピッチャーって、いい球を投げれば、それでいいということではないと思います。いいピッチャーの条件の一つは、野手から信頼されること。そういう意味で、今年の平井投手は成長しているように感じます。

 今年、平井投手は登場曲をナオト・インティライミさんの「花」に変えました。理由を知りたいのですが、取材ができないので聞けていません。

 想像するに、メッセージをサビの最後に感じます。「いつかいつか 見返してやるんだって 振り向かせたいんだ 僕だけの花を咲かせたい」という歌詞です。1年目から平井投手を見ていると、この言葉に集約されているような気がしています。

 4年目の今年、「僕だけの花」を咲かせる。平井投手にしかできないポジションで花を咲かせてくれたら、ライオンズの3連覇も近づいてくるはず。僕はそう思って、応援しています。

構成/中島大輔

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