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“モヤモヤさせる男”西武・松本航 恩師・辻孟彦が語った「いま何が足りないのか」

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/29
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フォーム改善のカギは「体重移動」

 だが、今の松本はその力を発揮できていない。辻コーチも、モヤモヤしているひとりだ。

「肩の開きが早く、バッターに胸が見えるのが早い。体重移動をしっかりと終える前に、左肩が開き始めている。だから、ストレートでなかなか空振りが取れない。球速もそこまで出ていないですよね」

 なぜ、松本の良さが消えてしまったのか。

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「気になるのはカーブです。カーブの割合が明らかに増えています。カウントを取れるようにもなっていて、成長を感じるところです。松本の性格上、ブルペンでしっかりと投げ込んで、ある程度『使える』と思ったうえで投げていると思います。ただ、カーブを投げ込んだ影響か、上体が高くなり、左肩が早く開くようになりました。フォームを崩している原因がひとつあるとすれば、カーブの影響があるのかなと見ています」

 ただ、だからといって、カーブを封印すればいいという話ではない。もっと、ピッチングの土台を鍛え直す必要があると語る。

「ぼくがひとつ言うとしたら、『体重移動を長くして、肩の入れ替えを早く』。キャッチボールや遠投から、軸足に乗って、軸足から動くことをもう一度意識してほしい」

 クイックモーションのときのコントロールの乱れや、対左打者への被打率が高いことが課題とも言われているが……。

「ピッチャーは神経質な性格が多く、松本もそういうタイプです。『クイックを速く』『フォアボールを出すな』と、結果ばかり言われると、どうしても気になってしまう。まずは、体重移動に重きを置いて、ホームベース上に強い球を投げること。そのためには、登板に向けた“調整”をするのではなく、投げない日にしっかりと“練習”をして鍛えていく。“練習していく中に試合がある”という考えを持ってほしいですね」

©大利実

ライオンズのエースを目指せ

 最後に、「松本に向けたメッセージをもらえますか」とお願いすると、一言、一言を大切にしながら言葉をつないだ。

「プロに入って、本当に納得いったピッチングはまだできていないと思います。もしかしたら、投げるのがイヤになったこともあるかもしれない。プロはそれだけ厳しい世界。でも、ぼくが現役を終えたときに思ったのは、『投げたくても、投げられなくなる日が必ず来る』ということ。すぐにはうまくいかないかもしれないけど、自分の中で納得がいく練習を重ねてほしい。目先の結果よりも、『ライオンズのエースになる』と大きな目標を持って、取り組んでほしい。間違いなく、それだけの素質があるピッチャーですからね」

 取材後の登板では、8月15日の楽天戦で7回無失点、23日のオリックス戦で5回1失点と、試合を作っている松本。改めて、辻コーチに尋ねると、明るい言葉が戻ってきた。

「体重移動からの肩の入れ替え、強くて速い回旋が徐々にできるようになってきています。うまくいかないピッチングが続いたことで、目先の結果は気にせず、練習の段階から体重移動を意識したフォーム作りに向き合えるようになったのかもしれません」

 どんな球が投げられるようになれば、“進化”したと言えるのだろうか。

「低めのストレート、具体的に言えば、回転数の多いスピンの効いた150キロで三振を取れること。それがコンスタントに投げられれば、おのずと結果は付いてきます」

 辻コーチのエールが、松本に届くことを願っている。

©大利実

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