安楽死や優生思想にあらためて関心が高まっている。先日、京都ALS女性嘱託殺人事件について報道され、やまゆり園事件も発生より4年を迎えた。
「大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる」。RADWIMPSの野田洋次郎によるツイートも、これに合わせたかのように大炎上した(本人は冗談と弁明)。
前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。
— Yojiro Noda (@YojiNoda1) July 16, 2020
お父さんはそう思ってる。#個人の見解です
『生きるに値しない命を終わらせる行為の解禁』
そんな今年、ある“禁断の書”も密かに刊行100年を迎えた。『生きるに値しない命を終わらせる行為の解禁』。ドイツの刑法学者カール・ビンディングと、精神科医アルフレート・ホッヘの共著で、ナチス安楽死思想の原典になったと指摘される本だ。
同書は、『「生きるに値しない命」とは誰のことか』(森下直貴、佐野誠訳著、窓社)というタイトルで詳細な注付きの翻訳が出ているが、その内容は、タイトル以上に衝撃的で、戦慄するほど現在に通じるものである。
同書は、ビンディングによる、こんな問いかけよりはじまる。
「さて、その問題とはこうである。命[生/生命]を終わらせる行為が許されるのは、現行法がそうであるように緊急事態を除けば、相変わらず本人の自殺[自己殺害/自害]に限定されるべきか。それとも、他人[人類同胞]による殺害へと法的に拡大されるべきか、また、その場合にはどの程度の範囲までか」(引用は前掲訳書より。いずれもカッコは原文ママ。ただし、ドイツ語の併記と傍点は除き、漢数字をアラビア数字に直した。以下同じ)
危険なテキストなので訳者も慎重だが、ようするに、「安楽死は許されるのか、そしてもし許される場合、それはどの範囲までか」という問いかけである。
これだけであれば、あるいは現在でも、尊厳死の文脈で通用するかもしれない。だが、本書が問題なのは、その対象を「疾病または重傷ゆえに助かる見込みのない絶望的な状態」におかれている人だけではなく、「治療不能な知的障害者」にも安易に広げ、しかもそこに経済的・人道的な理由づけを試みているところにある。