「(海岸近くに行ったら)発泡スチロールがあったのでいくつかをひもで結んで救命具にして夜になるのを待った。目視では1時間ほどだろうかと思っていた。泳いでいくと工場の灯りがみえて、3時間くらい泳いだのか、軍人が発見してくれなくて死ぬのかと思った」
「陸に上がると軍事境界線の門が開き軍人と警察8人くらいが出てきて、(私は)そこで倒れた。後で7時間半泳いでいたことを知らされて驚いた」(以上、『開城の部屋』より)
開城工業団地は、北朝鮮が弾道ミサイル発射実験後、その利益が武器開発に流用されているとして、朴槿恵前政権が2016年2月に稼働を停止した。以降、今も停止したまま。金氏はこの時から開城市自体の経済が厳しくなったと語っていた。
金氏は性的暴行で警察に追われる身だった
金氏は韓国では金浦市に住み、短大に通っていたが中退。本人は「家族に少しでもお金を送って、いつか両親を韓国に呼び寄せたい」と語り、そのために働き始めたと話していたのだが、先月、知人女性を性的に暴行したとされ、在宅起訴となり、取り調べを受けていた。
今月中旬には逮捕令状が出ていて、その矢先の逃亡だったといわれる。捜査していた金浦警察署には金氏逃亡の情報は入っていて、その所在を確認中だったことも明らかとなり、警察の失態に激しい非難が飛んでいる。
「楽に生きようと思って韓国に行ったが……」出戻り脱北者の衝撃
脱北者が再び北朝鮮に戻る事件はこれが初めてではない。
記憶に新しいところでは、2017年6月、韓国の『愛情統一 南男北女』(TV朝鮮)というテレビ番組で朝鮮人民軍出身を自称し、ファンクラブができるほど人気があった韓国名イム・ジヒョン氏が北朝鮮に再入国し、韓国社会に衝撃が広がった。
イム氏は2014年1月に韓国に入国し、複数のテレビ番組に出演。ちなみに「南男北女」は、南(韓国)にはイケメンが多く、北(北朝鮮)には美女が多いという意味で、韓国でよく言われる言葉だ。
イム氏は北朝鮮に再入国するとすぐにチョン・ヘソンという名で北朝鮮の対外専用メディア『わが民族同士』に登場し、「韓国のテレビ番組で北朝鮮についてウソを語った」と訴え、「楽に生きようと思って韓国に行ったが、韓国では飲み屋を転々とし、精神的、肉体的な苦痛が大きかった」と脱南理由を語っていた。
また、2009年10月には韓国人が軍事境界線を越えて北朝鮮に入国し、大騒ぎとなった。暴行事件などで指名手配されていた韓国人のカン氏(30歳)は、韓国の北東、江原道にある軍事境界線の鉄条網を切断して北朝鮮に入国したことが分かっている。同氏は、2001年から03年まで同地域にある部隊で兵役に服した経験があり、土地勘があったといわれる。