さながら『愛の不時着』!? と思いきや、現実はやはり苛酷だった……。
7月19日、約3年前に北朝鮮から7時間半泳いで韓国にたどり着いた脱北者(20代半ば、男性)が再び泳いで北朝鮮へ戻ったとされる事件が起きた。しかも、その脱北者に新型コロナウイルス感染の疑いがあるとして、北朝鮮が韓国へ猛抗議。
金正恩労働党委員長は脱北者がこっそり北朝鮮に戻れた警備の杜撰さにも激怒。韓国でも軍事境界線付近の警備の甘さやさらには警察の失態までも明るみに出て、騒然となっている。
「感染の可能性は低いはず……」韓国紙記者が首をかしげる理由
脱北者が再び北朝鮮に入国したという第一報が流れたのは7月26日日曜日の朝。
北朝鮮の朝鮮中央通信は、新型コロナウイルス感染の疑いがある脱北者が再び北朝鮮に入国したことにより緊急会議を招集したとし、次のように報道した。
「世界的な大災難として人類を脅かしている伝染病の流入を徹底して遮断するために強度の高い防疫戦を展開しているこの時期に、開城市に悪性ウイルスに感染したと疑われる越南(軍事境界線を越えて韓国に入ること)逃走者が3年ぶりに不法に分界線(軍事境界線)を越え、7月19日、帰郷する非常な事件が発生した」
韓国の中道系紙記者が言う。
「第一報が出た時は、『またか』と思ったのですが、新型コロナ感染者の疑いというので一体何が目的なのかと思いました。韓国では陽性であれば軽症者は生活治療センターや、それ以外は病院に即入院ですし、脱走すればすぐ分かる仕組みになっているので、感染している可能性は非常に低い。
韓国から来た脱北者が新型コロナ感染者だったとすることで北朝鮮の新型コロナ発生の責任を韓国に押しつけようとしたのか、それとも北の新型コロナ感染が深刻で韓国から何らかの援助を得ようとしたのか。
もしくは、脱北したばかなやつが韓国での生活にやはり耐えられなくて北に戻ってきた、それほど韓国は酷い環境で、さらには新型コロナも蔓延していると北朝鮮住民に知らしめることで結束を図ったのか。まだその意図は読めません」
「木の枝で足元をつついて地雷をよけた」壮絶な脱北エピソード
北朝鮮に再入国したと言われるのは、北朝鮮の開城市出身の金氏だ。開城市は6月16日に金与正党第一副部長が爆破した南北共同連絡事務所があった街。韓国から軍事境界線を挟んで北朝鮮領土までは1.2km~3kmほどの距離とされ、海岸沿いから開城市までは歩いてたどり着けるといわれる。
金氏は、2017年6月に脱北し泳いで韓国に来たとされ、脱北者の人気ユーチューバー、キム・ジナ氏の『開城の部屋』に出演した際、その経緯をこう語っていた。
「開城市で商売をしていたが、開城工業団地が閉鎖され、商売が回らなくなり生活が苦しくなって、将来に希望が持てなかった。山にのぼったら金浦市が見えて、灯りや鬱蒼とした木が見えて、どんなところだろうと思った。こんな風にして(食べ物が手に入らないなど)死ぬなら韓国に行ってみようと思った」
「(2017年6月)38度線を越えようと決心して、高圧線鉄条網の下を匍匐前進でくぐり抜けたら、地雷畑があった。いつだったか、中国の映画にあった地雷を避けるシーンを思い出して木の枝を折って一歩一歩足を出すたびにつつきながら進んだ」