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「主人」は「新用法」だった!?

 ところで、そもそも論として、「主人」は昔から一般家庭で使われてきたのかというと、必ずしもそうではないようです。

 遠藤織枝さんによると、妻が夫を指して「主人」と言うことが広まったのは、むしろ戦後で、昭和30年(1955年)以降のテレビのホームドラマに影響されたと言います(『朝日新聞』1988年5月31日付)。上流階級ではそれまでも「主人」を使っていましたが、その言い方を一般の人がまねするようになったんですね。家制度がなくなった戦後に、かえって「主人」が好まれたというのは皮肉です。

『日本国語大辞典』第2版を見ると、妻が夫を指す「主人」の例としては、庄野潤三の小説「道」(1962年)の一節が挙げられているだけです。たしかに、古い例はあまり多くなさそうです。

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 一方、「主人」の呼称に反対する動きも、戦後に起こりました。1955年6月、約2000人が集まった第1回母親大会において、「『主人』と呼ばず『夫』と言おう」という呼びかけが採択されました。

 実は、この「夫」と言う呼称は、むしろ戦前に妻がよく使っていたものです。戦後、妻が「夫」に代わって「主人」と表現することが増え、その「新用法」に対して反対の主張が起こったというわけです。

 これが、今日に至る「『主人』是か非か」という論争の始まりです。単純に「主人」が古く、「夫」が新しいとは言えないのが面白いというか、複雑なところです。

第三者の配偶者を呼ぶには?

 さて、2つめの「第三者の配偶者を指す場合」。これは、書きことばでよく問題になります。

 報道では、ずいぶん前から、社会的地位にかかわらず、第三者の配偶者には「夫」「妻」を使うようになっています。たとえば、「A社長の妻・Bさん」のように。かつては、地位のある人の妻の呼称には「夫人」などの尊称も使われましたが、今では「夫」「妻」で定着し、違和感は薄れました。

 私たちが書く文章も、報道のことばに準じていいでしょう。「C先生の妻・Dさんは長年先生の研究に協力され……」で問題ありません。

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「いや、違和感あるぞ」と思う人は、「夫人」を使いましょう。夫の尊称としては「夫君(ふくん)」も使えます。改まったスピーチに使う場合は、これに「ご」をつけて「ご夫君」「ご夫人」とすると丁寧です。「ご」は過剰だという意見もありますが、話しことばでは問題ないでしょう。

 困るのは日常会話です。第三者のうわさ話をしていて、「山田さんちのご主人は今度栄転だって」などと言う場合。ここでは、「ご夫君」「ご夫人」はさすがにおかしい。

「ここはもう『ご主人』『奥さん』でいいや」という気もするし、「そもそも、人の家庭のうわさ話は控えるのがいい」とも思うのですが、この解決方法については、次の3つめの答えを参考にしてもらいましょう。