7月30日、東京都医師会が開いた記者会見で、尾崎治夫会長は会場を見渡すように、こう話した。

「良識のある国会議員の皆さん、コロナに夏休みはありません。一刻も早く国会を開いて国ができることを示して、国民を安心させてください。国がどう感染症に立ち向かうのか。そういう姿勢を見せてほしい」

 いかつい顔を、さらにゆがめながら、最後は声を張り上げていた。

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記者会見する尾崎治夫氏 ©共同通信社

「政府は何もしてないに等しい」

 新型コロナウイルス感染者数は、東京では連日300人とか400人という大台を優に超えていく。その感染が全国に飛び火し、あちこちで火の手が上がっている。その日本の中心の医療を預かる東京都医師会長として、尾崎の苛立ちは募るばかりだ。

「政府の動きが見えない。何もしてないに等しいんだよ」

 尾崎は筆者の取材に、何度もこう嘆いた。

 もちろん医師会は自民党支持だ。尾崎自身、自民党員である。都医師会長の地位まで上り詰めながら、こういった政府批判とも受け取れる言動は、さらに上を目指すうえで賢明な選択とは言えないことは承知しているはずだ。

存在感が消えた安倍首相 ©共同通信社

 それでも尾崎は、黙っていられなかった。

「ぼくは、本当に必死なんだよ」

経済優先を掲げる首相周辺への怒り

 あの時もそうだった。

 3月下旬から東京の感染者数が急に増え始めた。確保している病床が瞬く間に埋まっていく。医療崩壊寸前だ。コロナ感染者を受け入れていない病院も、骨折の患者が感染者だったり、酸素吸入のための気管内挿管をした後から感染者だったと分かるなど、院内感染が多発した。

 とにかく態勢を構築するためには、緊急事態宣言が必要だ。そう思った尾崎は、当時の横倉義武日本医師会長や医系の国会議員を通して官邸に働きかける。

 だが、経済産業省に牛耳られている首相周辺の意思は「経済優先」だった。

「国会の中に閉じこもってないで現場に来い!」