「退位を巡るビデオメッセージ」の影響も?
「一つは、ビデオメッセージを出そうとしたが、タイミングを逸した可能性です。ウイルスの拡大には、終わりがありません。後から見ればこの日が拡大のピークだったとわかりますが、刻々と状況が変わる中では、何時どの瞬間がメッセージを出すベストのタイミングかわかりづらかった。この点は、地震や津波などの自然災害と異なる点です。
もう一つは、天皇自身あるいは側近が判断して『メッセージ』は発しない方がよいと決めた可能性です。
2016年に上皇が出した『退位を巡るビデオメッセージ』は少なからぬ軋轢を、皇室と時の政権の間に生みました。
現憲法下で天皇は国政に関する権能を有しません。にもかかわらず、あの時は事前に『8月8日の午後3時から』と放送日時を指定したうえで、天皇が11分にわたり、政府や国会を通さず国民に向かって直接語りかけるや、退位を支持する圧倒的な民意が形成されました。
そこから政府は動かざるをえなくなり、退位に関する特例法が成立しました。結果として、法の上に天皇がたち、露骨に国政を動かしたのです。それに対して、政権から表立った反発はありませんでしたが、メッセージの発表翌月には宮内庁長官が事実上更迭されるなど、内閣と宮内庁の軋轢が見え隠れしました。
今の天皇と皇后はそうした経緯をつぶさに見ていたはずです。今回メッセージを出さなかったのは、2016年を反面教師にして、内閣との関係や日本国憲法における象徴天皇の在り方について、より慎重に考えた結果、とも考えられます」
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果たして、コロナ禍で明らかになった皇室の「変化」とは何か。原さんの論考「天皇と雅子皇后はなぜ沈黙しているのか」は、「文藝春秋」8月号と「文藝春秋 電子版」に全文掲載されている。
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天皇と雅子皇后はなぜ沈黙しているのか