井口資仁の死球数は強打者の証
1914試合に出場をして146死球。あまり表に出る事はない数字だが、その数は強打者の証である。9月1日時点で日本球界歴代5位。250本塁打、日米通算2000安打。今季限りでの現役引退を発表した井口資仁内野手を語るとき輝かしい数字は沢山あるが、私にはこの受けた死球数こそがこの人を象徴しているように思える。
「それだけインコースを攻められているということではあるよね。相手が嫌がってくれているからこそ、インコースに投げる。自分が結果を出していくのに比例してデッドボールは増えたよね」
この男の凄さはどんな場面でも痛さを表情に出さない事。勝負の世界に身を置く男として、どんな状況でも相手に弱みを見せまいという強烈な気迫が感じられる。
「もちろん、痛いよ。でも、少々の痛みは我慢をしている。この勝負の世界において、大事なのは勝負に勝つこと。そういう意味では死球の後、どうやって打つかを考えている。死球の後に自分の打撃が崩れないように意識をしないといけない。死球の後だからこそ、次の打席では絶対に打ちたいと思っている。いつも当たった直後から、次はどうやって打つか、どう攻めてくるだろうかと考えていた」
打席は、相手投手との読み合いでもある。だから、死球を受けた後に、腰を引くわけにはいかない。そんな時にこそ、グッと一歩、踏み込んで力強く打ち返す。もうインコースはないと決め、狙い打ちをすることもある。痛いという感覚より先に、次にいかに打つかに頭を巡らせる背番号「6」の姿はプロフェッショナルそのものだった。
敵や後輩に弱みを見せないために
146個の死球を受けた井口だが、それを理由に戦線離脱をしたのはたった一度だけ。09年のライオンズ戦で左手首に受けた際だ。ただ、その時も「プレーが出来ない痛みではない」とプレーを続けた。あまりにも腫れが引かなかったため、1週間後に再検査を受け、骨折が判明。患部を6週間ほど固定し、リハビリ生活を余儀なくされた。
「あの時は、なかなか痛みが引かなくて、バットも握れない感じになった。そこまでいくともう仕方がないけど、この世界では少々の痛みは誰だって、いつだってある。その中でいかにファンの皆様にお見せできるようなベストなプレーが出来るか。プロ野球でプレーをしている限り、一年中、なにかしらの痛みとは付き合いながら闘っていかないといけない。その覚悟はいつもあった」
痛みをこらえ、立ち上がる。あえて敵に弱みを見せないため、涼しい顔を見せることもある。その背中を若手の多いマリーンズの選手たちが見てきた。自分の立場も分かっていたからこそ、弱い姿勢は絶対に見せまいと決めていた。