「文藝春秋」8月号の特選記事を公開します。(初公開:2020年7月26日)

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「少女像を東京の真ん中に建てて、行き来する人々が謝罪できるようにしなければならない」

 7月5日、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さん(91)は、慰安婦支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)の李娜栄(イ・ナヨン)理事長と面会し、こう語った。

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 支援団体と歩調を合わせ、慰安婦像(少女像)の建設を訴えるのは従来通りの「反日発言」であり、いまさら驚きはしない。

 だが、李さんがこの期に及んでこうした発言をするのは腑に落ちない。

わずか2カ月での「手のひら返し」

 李さんは5月7日に行った記者会見で、「募金が元慰安婦たちに使われず、お金の行方もわからない。私は30年来、騙されてきた」と語り、正義連の尹美香(ユン・ミヒャン)前理事長を「元慰安婦を利用して私腹を肥やした」と告発していた。

尹氏を告発した李容洙

 ところが、正義連を厳しく批判したわずか2カ月後、ふたたび正義連と手を結ぶ「手のひら返し」をしたのである。

 尹氏は正義連の前身である「挺身隊問題対策協議会」(挺対協)が発足した1990年代前半から約30年にわたり慰安婦支援の活動に携わってきた。長年にわたる活動が文在寅政権に評価され、今年4月の総選挙では与党「共に民主党」の比例政党から出馬し、晴れて国会議員になった。

 李容洙さんの告発を受けて、韓国メディアは一斉に取材に動いた。

「募金の横領疑惑」が次々と明らかに

 すると、尹氏の娘のカリフォルニア州立大学(UCLA)音楽大学院への留学費用や、家族名義を含め5軒もの不動産購入費など、尹氏や正義連を巡る「募金の横領疑惑」が次々と明らかになっていった。

無実を主張する尹美香

 5月下旬には正義連の事務所を家宅捜索するなど、李さんの告発によって、検察も本腰を入れて捜査に動き出していた。

 そうした矢先、なぜ李容洙さんは当初の態度を翻し、告発した相手側の正義連と手を携え、「反日」を叫ぶにいたったのか。

 実は、筆者はこれまで何度も李さんに取材をしたことがあるが、そのたびに態度を変えることは珍しくなかった。