文春オンライン

「素手で触った金を渡すのか」タクシー運転手がコロナ禍で乗せた「変な客」

ドライバーも乗客もともに気をつかいながらの道中である

2020/08/24
note

 少し落ち着いたようにみえたコロナ禍。

 しかし、最近は感染者が増えている報道が毎日され、第2波の到来かと緊張する日々が続く。3密をなるべく避けるように移動に気をつけながらの密室な空間のタクシー。実際のところタクシーのコロナ感染対策としてどのようなものがなされているのだろうか? 運転席と後部座席を仕切るようにビニールのカーテンを取り付けたり、それとは反対に遮断せずに乗客を降ろす度に車内の空気の入れ替えと消毒を徹底噴霧したりと統一されておらずまちまちだ。

 未だに手探り状態で、ドライバーも乗客もともに気をつかいながらの道中である。

ADVERTISEMENT

©️iStock.com

 クーラーのついた車内に居続けると喉が渇き、時折、軽く咳き込むこともしばしば。そして、その咳を我慢しようと意識すればするほど出てしまう。

「あ~、お茶でも飲んどけばよかった……」と思っても後の祭り。気をつかって乗客に「私、コロナではありませんからね」と言おうものなら、余計疑いをかけられてしまうのでそのような言葉は言えない。ルームミラー越しに見える、乗客の疑いの目。気まずい雰囲気を車内に漂わせながらの道中ということもよくある話である。

 もちろん乗客のほうもドライバーに気を使いながら乗る人がほとんどであるが、中には「んっ?」と思わせる乗客もいるのも確かだ。

 都内でタクシー運転手をしている私が、この間にとりわけ印象に残った乗客について書いてみたい。

マスクをせずに乗車してきて……

 身なりをしっかり整えた壮年の男性が乗ってきた。と同時に何か違和感があった。そうマスクをしてない。今や顔の一部となったマスクをしていないのだ。それも乗ってきたと同時に軽く咳き込み、開口一番に「あれ? この車は防護のシートしてないの?」。

※写真はイメージです ©️iStock.com

 乗客は、ドライバーがマスクをしていない自分の姿に怪訝さを感じたのがわかったのか、それに被せるかのように渋い顔をして言った。確かにその車両は、遮断カーテン装着の車ではなかったが、乗客を降ろす都度十分に換気と消毒をしていると伝えると舌打ちで返してきた。